プルツーの誕生と存在意義
クローン兵士としての背景
プルツーは、『機動戦士ガンダムZZ』においてネオ・ジオンが創出したニュータイプ(NT)パイロットのクローン群「プルシリーズ」のひとりであり、ナンバリングの二番目とされている。彼女はNTの素養を持つ女性の遺伝子を用いたクローンとして誕生し、人工的にNT能力を引き出す目的で兵士として育成された。
ネオ・ジオンは、NT兵器の運用にあたり自然発生的なニュータイプに依存する限界を乗り越えるべく、クローン技術を用いて自前のNT兵士を創出するという極めて過激な戦略を採った。これは、一年戦争期においてサイコミュ搭載モビルアーマー(MA)やMSが一部のNTによって高い戦果を挙げたという戦訓に基づく。
中でも、グレミー・トトによって直接管理された「プルシリーズ」は、戦術レベルでの即応性と戦略レベルでの部隊運用を兼ね備える実験部隊として構成され、プルツーはその象徴的存在であった。
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エルピー・プルとの関係性
プルツーは、同じく「プルシリーズ」の一員であるエルピー・プルと遺伝的にほぼ同一であるとされている。彼女たちはクローン技術により作られた「双子」のような存在であるが、精神的・性格的には大きな差異を持っていた。
プルは純真無垢な精神性と感情豊かな性格を持ち、しばしば子供のような振る舞いを見せた一方、プルツーは好戦的かつ冷徹な側面を強調され、兵士としての完成度が高かった。この違いは、ネオ・ジオン内部で施された人格の「刷り込み」による教育方針の相違に起因するものと考えられる。
興味深いのは、彼女たちが「同一の存在」であることに対して、プルツーが強い拒絶反応を示す点である。これは、自己同一性に対する混乱や、刷り込まれたアイデンティティとの齟齬を意味しており、クローン技術が抱える心理的な問題を象徴する描写でもある。

外見的特徴と演出の違い
設定画において、プルツーはプルよりもやや髪が長く、目つきが鋭く描かれている。また、作画上もプルより兵士としての威圧感や成熟性が視覚的にも演出されている。プラモデル「マスターグレード キュベレイMk-II」に付属するデカールにもこうした外見的差異が反映されている。

劇中での活躍と変容
初登場と対プル戦
プルツーが初めて登場するのは、ネオ・ジオンによるダブリンへのコロニー落とし作戦時である。グレミー・トトの命によりコールドスリープから目覚めさせられ、サイコガンダムMk-IIに搭乗してアーガマ討伐に出撃する。
この時、彼女は既にアーガマ側に加わっていたエルピー・プルと交戦する。プルが示した人間的な感情と自由意志に対して、プルツーは明確な嫌悪を抱き、自身との違いに対する否定的な感情を露わにする。その結果として、彼女はプルを戦闘中に撃破し、その死はジュドー・アーシタの激しい怒りを引き起こすこととなる。
この一連の出来事は、プルツー自身にも精神的な揺らぎを生じさせる契機となり、以後の彼女の行動には幾ばくかの「動揺」が混在していく。
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クィン・マンサ搭乗と最終決戦
プルツーはその後もグレミーの命に忠実に従い、搭乗機をクィン・マンサへと変更してジュドーらと幾度も交戦を重ねる。クィン・マンサは当時のMSとしては異例の重武装と高出力サイコミュを備えており、彼女のNT能力と結びつくことでジュドーにとって脅威となった。
ラビアンローズの破壊など、大規模な戦果を挙げる中で、プルツーは次第に「兵器としての自己」と「人間としての自己」の狭間で揺れ動くようになる。特にジュドーが彼女に対して投げかける「戦いの否定」や「人間としての存在価値」への問いは、彼女にとって刷り込まれたプログラムでは処理しきれない感情の渦をもたらした。
やがて最終決戦において、グレミーとの共同戦線の中でプルの思念体と再会したことで、プルツーは初めて「自分が本当に望んでいること」を理解するに至る。彼女はジュドーのもとへと自ら歩み寄るが、その直後に乗機が爆発、重傷を負う結果となる。
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プルツーの最期とその象徴性
終焉の描かれ方と作品ごとの差異
テレビアニメ版『機動戦士ガンダムZZ』において、プルツーの最期は明示的な死亡描写を避けた曖昧な形で描かれている。彼女は爆発に巻き込まれて重傷を負い、ネェル・アーガマに収容された後、最期の力を振り絞ってジュドーの脱出を援護する指示を与え、力尽きて倒れる。この場面では「死亡した」とは明言されず、「命を燃やし尽くした」とも解釈できる終幕である。
一方、小説版ではより明確な形でプルツーの死が描かれる。爆発から一度は逃れたものの、グレミーの死を感じ取って引き返し、乗機の爆発に巻き込まれて死亡。さらに葬儀の描写までが加えられており、物語的には彼女の死を「人間としての死」として扱っている点が特徴的である。
このように、媒体によって彼女の最期は異なる解釈を許容しており、視聴者や読者に彼女の存在をどのように記憶させるか、という演出上の選択が感じ取れる。

最期に見せた人間性と自己決定
最終局面において、プルツーはもはや兵器ではなかった。彼女は「命令ではなく、自分の意思で行動する人間」へと変化を遂げていた。これは彼女のニュータイプ能力による精神的な覚醒でもあり、また、プルやジュドーとの関係を通して得た「人間としての感情」の帰結でもある。
彼女が最期に見せた行動──ジュドーの脱出援護──は、兵士としての任務でも命令でもなく、完全に自己の判断に基づくものだった。ここにおいて初めて、プルツーは「刷り込まれた存在」ではなく、「自由意志を持つ人格」として描かれたのである。
この変容は、クローン技術によって作られた存在であっても、人間性を獲得しうるというガンダムシリーズに通底するテーマ──「人とは何か」「魂はどこに宿るのか」──に対する応答であるといえる。

ニュータイプ論におけるプルツーの位置づけ
クローンNTという進化の系譜
『ガンダムZZ』の物語は、ニュータイプ概念の変容と実験を続けるガンダムシリーズの中でも特異な立ち位置にある。特にプルツーのような「クローンNT」は、従来の自然発生的ニュータイプとは異なる、人工的かつ制度的に生み出された「NT兵士」という新たな枠組みに属する。
ニュータイプとは、本来「人類の進化形」として定義される存在であったが、プルツーに代表される人工的ニュータイプは、この理念の矮小化を象徴している。彼女たちは「NTとして戦える能力」を評価された結果として誕生し、「NTとして生きること」には重点が置かれていない。
つまり、プルツーは「NTとは何か?」という問いに対して、「制度による再現は魂の本質に到達できるのか?」という根源的な疑問を投げかける存在であり、ガンダム世界における人間観・進化観を逆説的に浮かび上がらせる。

精神感応と「思念体」の描写
また、プルツーの物語において重要なのが、死んだはずのプルの「思念体」が彼女に呼びかける場面である。これは、ニュータイプ能力が単なる戦闘能力ではなく、「人と人の心をつなげる力」であることを象徴的に示している。
この「思念体」は、物理的肉体を離れても精神が残存し、他者と接触しうるという演出であり、ニュータイプ論における「集合的無意識」や「魂の交流」といったテーマを連想させる。
プルツーがプルの呼びかけに応じ、自我に目覚めるという描写は、彼女自身がニュータイプとしての「覚醒」を果たした瞬間ともいえよう。クローンであっても魂を持つというメッセージ性がそこには込められている。

クローン倫理と人間性の回復
兵士か人間か:存在の二重性
プルツーの存在は、SFにおけるクローン倫理の問題と密接に関わっている。彼女は戦闘のためだけに作られた存在であり、「生まれる必然性」のない生命体である。だが、物語を通して彼女は他者との関係性の中で感情を得て、人間らしさを見出していく。
このような描写は、現代におけるバイオテクノロジーや人工知能の倫理的問題と重なっており、技術の進展が「人格」や「自由意思」をどう扱うべきかという問いを投げかけている。
プルツーは、単なる技術の産物ではない。「彼女は“誰かのために行動する”という人間らしい選択をした存在」であるという事実は、たとえ出生が人工的であっても、その後に獲得した「人間性」は否定されるものではないという強いメッセージを内包している。
ムームーサーバー
プルツーという名の象徴
最後に、彼女が「プル“ツー”」という名前で呼ばれていること自体が、彼女の存在が「模倣」であることを端的に示している。だが、物語の終盤で彼女は“プルのコピー”ではなく、“自分自身”として行動する。
これは「ナンバーで呼ばれる存在が名前を持つ」ことの意味、「個の回復」が描かれた瞬間であり、ガンダムシリーズに通底する「人間の尊厳」の主題と深く結びついている。
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結論:魂を持つクローン兵士という存在
プルツーは『機動戦士ガンダムZZ』という作品の中で、技術と倫理、兵器と人間性という対立軸を体現する複雑なキャラクターである。彼女の存在は単なる敵役ではなく、視聴者に深い問いを投げかける媒介であり、またガンダムシリーズが一貫して描こうとする「人とは何か」というテーマの体現者でもある。
その人生──否、その「存在」は、決して誰かの代替ではなかった。プルツーというキャラクターの価値は、彼女が最終的に「人間らしく死ぬこと」を選び取ったその瞬間に、凝縮されている。
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引用文献・参考資料(再掲)
- 『機動戦士ガンダムZZ』バンダイビジュアル
- 『機動戦士ガンダム ニュータイプ伝説ぴあ』ぴあMOOK
- 『機動戦士ガンダムヒロインズ』KADOKAWA
- 『マスターグレード キュベレイMk-II』取扱説明書、バンダイ
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