ララァ・スンは、一年戦争期にシャア・アズナブルによって才能を見出され、後にフラナガン機関でニュータイプとして育成された少女である。彼女の存在は、シャア、そして彼の宿命的なライバルとなるアムロ・レイに深い影響を与え、その余韻は宇宙世紀史の後年にまで響き続けることとなった。

画像引用元:『機動戦士ガンダム』 ©創通・サンライズ
1. プロフィール
- 名前:ララァ・スン(Lalah Sune)
- 生年:U.C.0062年
- 年齢:17歳(劇中時)
- 出身:サイド5、または地球・インド亜大陸(ムンバイ)
- 所属:ジオン公国軍 突撃機動軍 独立第300戦隊
- 階級:少尉
- 搭乗機:MAN-08 エルメス
ララァ・スンはインド系の血統を持つ少女であり、褐色の肌、エメラルドグリーンの瞳を特徴とする。額にはヒンドゥー文化圏に見られるビンディに類似した意匠を施しており、その外見は宗教的・民族的背景を示唆するものとして印象的である。
戦闘時を除く日常では、裾の広がった黄色のワンピースドレスを好んで着用していた記録が残る。しかし、突撃機動軍司令官キシリア・ザビから叱責されたため、以降は謁見時のみ軍服への着替えを行っていたとされる。
2. シャア・アズナブルとの出会い
2-1. 出身と背景
ララァ・スンがシャア・アズナブルと出会う以前の経歴については、媒体によって表現が異なり、確定した設定は存在しない。
代表的な説として、以下の二系統が挙げられる。
- サイド5出身説
生まれながらのスペースノイドであり、サイド5で生活していたところ一週間戦争に巻き込まれ、両親を失ったとするもの。戦災孤児となった後、避難先のサイド6でシャアと邂逅したとされる。 - 地球・インド出身説
地球圏出身で、インドのムンバイにルーツを持ち、商館で働いていたとする説である。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では後者が採用されており、ララァはムンバイの大家族のもとに生まれるも、貧困から口減らしとして家を追われ、ギャンブル師の男に拾われたと描かれる。彼女は持ち前の予知能力めいた直感で賭博を支え、その見返りとして生活を維持していた。劇中では13歳の設定で、ジャブローのカジノでシャアと出会うことになる。
いずれの系譜においても共通しているのは、ララァが社会的弱者として過酷な環境に置かれていたこと、そしてその境遇が後の運命を大きく左右する点である。
2-2. シャアとの邂逅
サイド5出身説においては、ララァはルウム戦役の被災者としてサイド6のパルダ・コロニーに漂着し、荒廃した生活を送っていたとされる。そこで彼女の潜在的ニュータイプ能力に気づいたシャアが保護し、軍へ導いたと伝えられている。
一方、『THE ORIGIN』における地球出身説では、ララァはデリー郊外の養護施設を経て、ガンジス川沿岸にある高級士官向けの娼館「カバス」に売られ、その場所で左遷後の失意と放浪の中にいたシャアと出会う。シャアは彼女の能力に直感的確信を抱き、金塊と引き換えに身請けしたと描写されている。
その後、ララァはシャアと共に宇宙へ向かい、フラナガン機関でニュータイプ能力を体系的に開花させていく。この過程で、ララァはシャアに対し恩義に加えて恋愛感情を示唆する描写がみられ、二人の関係は単なる軍人と研究対象という枠を超えた複雑な結び付きを形成していく。
なお、興味深い描写として、シャアはかつてパイロットスーツを着用しない主義を貫いていたが、ララァの進言によって以後の搭乗時には着用するようになったとされる。この逸話は、ララァがシャアの精神的指針として作用していたことを示す象徴的なエピソードといえる。
3. ニュータイプ能力
ララァ・スンは、既知の人類の中でも突出したニュータイプ能力を備えていたとされる。サイコミュ研究段階にあったフラナガン機関において、調整が不完全なサイコミュを用いながらも七割以上の命中精度を記録したという報告は、その異常な適応性と潜在能力を示す重要な指標である。この性能は、研究責任者であるフラナガン博士さえ驚嘆させたと伝えられている。
彼女が搭乗したモビルアーマーMAN-08 エルメスは、サイコミュによるオールレンジ攻撃を可能とする兵器体系の先駆となった機体であり、ララァはその潜在性能を最大限に引き出した数少ない操縦者であった。ソロモン攻略戦では、連邦軍艦船およびMS部隊に対し圧倒的な撃破記録を残し、初陣にして戦艦四隻撃沈という異例の戦果を挙げている。この一連の戦闘行動により、ララァは連邦軍将兵の間で「ソロモンの亡霊」として恐れられる存在となった。
また、彼女の能力は単なる戦闘技術に留まらず、予知・感応といった超感覚的認識能力(Extrasensory Perception)としても現れていたとされる。幼少期から未来予知めいた直感を示したという証言が複数残されており、ララァが戦火から生還できた背景にも、その能力が関与したと推察されている。
さらに、シャア・アズナブルとの邂逅についても、単なる偶然ではなく、ララァの精神感応能力が「呼び寄せた結果」であると解釈する説が存在する。これは劇中に見られる彼女のニュータイプ的感応描写や、アムロ・レイとの交感にも通じており、ララァがニュータイプ概念の象徴として扱われる理由の一端をなしている。
4. アムロ・レイとの出会い
ララァ・スンとアムロ・レイの邂逅は、サイド6において偶然のかたちで訪れる。雨に降られたアムロが湖畔のコテージで雨宿りをしていた際、テラスに腰掛け、白鳥を静かに見つめる少女――それがララァであった。
二人は短い会話を交わすだけであったが、その瞬間、アムロはララァの存在に説明のつかない感覚を抱くことになる。この感覚は、言葉よりも早く心が触れ合うようなものであり、作中ではニュータイプ同士の精神的共鳴として解釈される象徴的場面となっている。
この出会いが二人の運命を大きく変えることになるが、その時点では互いが戦場で相まみえる存在になるとは予期されておらず、平穏な時間の中にわずかに漂う不可思議さが、後の悲劇性を際立たせている。
5. 死に際
ソロモン攻略戦後の宇宙戦闘において、ララァはアムロ・レイの駆るガンダムと交戦する。既に両者はニュータイプとして覚醒段階にあり、戦闘中にも関わらず精神が交感し、互いの存在を深層意識で理解しようとする描写が確認される。しかし戦局は激化し、シャア・アズナブルが劣勢に追い込まれた瞬間、ララァは咄嗟にその盾となり、ガンダムのビームサーベルによりコックピットを貫かれ戦死した。
その刹那、ララァの意識は肉体を離れ、生と死の境界に位置する時間の歪んだ領域でアムロと共鳴する。二人はそこで未来の断片を共有したとされ、この体験はアムロにとって未来への希望と取り返しのつかない喪失という両義性を抱えた瞬間として刻まれる。一方、シャアにとってララァの死は、自らの判断が招いた不可逆の結果であり、後の人生を規定する心理的傷痕となった。
この出来事以降、ララァは単なる戦死者ではなく、アムロとシャアという二人のニュータイプを結び、隔て、時に苦しめ続ける象徴的存在となる。彼女は劇中以降の作品世界においても、肉体を超えた「声」や「記憶」として現れ、宇宙世紀におけるニュータイプ思想の中心的象徴――「永遠の女」として位置づけられていく。
6. 死しても残る思念
ララァ・スンの死は、アムロ・レイとシャア・アズナブル双方に深い心的影響を残した。特にアムロは、一年戦争後もしばらく精神的な重荷を抱え続け、ララァをめぐる罪責感と喪失感は、彼が宇宙空間へ復帰することを躊躇させる要因となったとされる。『機動戦士Ζガンダム』において、再会したシャアはその姿を見て「ララァに会うのが怖いのか」と問いかけており、ララァの死が両者の間にいまだ解決されない精神的断絶として存在し続けていたことが示唆されている。
第二次ネオ・ジオン抗争(『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』)の時期になると、アムロの精神世界にララァが現れる描写が確認される。夢の中でララァはアムロと言葉を交わし、両者が未だ精神的な交感の領域で繋がっていることを示している。また、本作においてシャアは、戦闘中アムロに対しララァについて語り、彼女は「(ニュータイプとして自分を導く)母親になってくれたかもしれない女性(人)」と告白する。この発言は、ララァが単なる恋愛対象や戦友ではなく、ニュータイプ理論における精神的到達点――“救済者”としての理想像であったことを示す重要な解釈材料となっている。
さらに『機動戦士ガンダムUC』では、シャアの精神的残滓を宿した存在とされるフル・フロンタルの内面で、ララァの思念が語りかける描写が確認されている。これは、ララァが肉体を失ってなお宇宙世紀世界の思想・精神史の中で生き続けている象徴であり、ニュータイプ概念そのものの原風景として位置づけられていると読み解くことも可能である。
関連記事:アムロ・レイ(グリプス戦役~第一次ネオ・ジオン抗争期)
7. 参考文献
- 『Wikipedia – ララァ・スン』
- 『機動戦士ガンダム』 ©創通・サンライズ
- 『機動戦士Zガンダム』 ©創通・サンライズ
- 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』 ©創通・サンライズ
- 『密会〜アムロとララァ』 角川書店
- 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』 角川書店
- 『データガンダム [宇宙世紀編Ⅰ] キャラクター列伝』 角川書店
8. 関連製品
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