コズミック・イラ:遺伝子操作された人類の時代

技術/設定

コズミック・イラ(C.E.)は「機動戦士ガンダムSEED」における紀元であり、過去のガンダムシリーズに使用された「センチュリー」を用いらない形で命名された。

この記事では機動戦士ガンダムSEEDの舞台となるコズミック・イラについて、作品以前の歴史、科学技術や社会的問題を深堀する。

西暦からコズミック・イラへ

西暦最後の戦争「再構築戦争(Reconstruction War)」

西暦時代の末期、人類社会は多方面にわたる危機に直面していた。世界各地で民族・宗教紛争が激化し、加えて石油資源の枯渇環境汚染の深刻化により、地球規模での経済不況が発生する。各国政府の統治能力が低下する中、世界は次第に政治的ブロック化が進行し、国際社会は複数の勢力による分割支配体制へと移行していった。

やがて局地戦が連鎖的に拡大し、戦争は第三次世界大戦と称されるまでの大規模な衝突へと発展する。その中でも特筆すべきは、C.E.1年における中央アジア戦線(カシミール地方)での核兵器使用である。この事件は、後に「最後の核」と呼ばれるようになる。この核兵器使用は、西暦時代の終焉を象徴する歴史的転換点ともなった。

戦争はC.E.9年にようやく終結を迎えるが、その規模と影響の大きさから、単なる戦争という枠組みを超え、「再構築戦争(Reconstruction War)」と呼ばれるようになった。国家や国境といった既存の政治的枠組みが大きく変容し、世界秩序は根底から再編成されるに至った。

この再構築戦争の終結を契機として、国連の主導により統一歴「コズミック・イラ(Cosmic Era, C.E.)」が制定されることとなった。C.E.紀元は、「最後の核」が使用された事件を元年と定め、人類の過ちを繰り返さないという象徴的意味合いを込めた新たな時代の起点とされたのである。

再構築される世界

大戦の名称が示すとおり、再構築戦争の終結後には従来の国家体制が大きく改編され、各地域の情勢に応じて、世界は11の国家へと再編成された

  • アメリカ・カナダ・イギリス・アイスランド・アイルランドによる大西洋連邦[3]
  • ロシア・EU諸国によるユーラシア連邦[3]
  • 日本・中国・韓国・北朝鮮・モンゴル・台湾による東アジア共和国[3]
  • ラテンアメリカ諸国による南アメリカ合衆国
  • 北アフリカの国々によるアフリカ共同体
  • アフリカ大陸南部の国々による南アフリカ統一機構
  • スカンディナヴィア半島の王国によるスカンジナビア王国
  • 中東・アラビア半島の国々による汎ムスリム会議
  • 東南アジア、南アジア地域の国々による赤道連合
  • オセアニア地域による大洋州連合
  • ソロモン諸島のオーブ連合首長国

蘇る世界

戦後、建造が凍結されていた第四世代国際宇宙ステーション「世界樹」の建設計画は再開され、C.E.11年に完成した。一方で、C.E.10年には宇宙移民に向けたコロニー構想が本格化し、C.E.12年に人類が居住可能な初の月面都市「コペルニクス」が建設されている。

同時期、大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国の三大勢力はそれぞれ宇宙軍の設立に踏み切っており、これにより宇宙への経済的・軍事的進出は急速に加速した。

社会と科学技術

社会環境と技術インフラ

C.E.71年の時点で、地球圏の総人口は約150億人に達していた。このうち、宇宙空間で生活する者の大多数はプラントに居住するコーディネーターで構成されていた。一方、地球上では、地球連合加盟国に約75億人、反連合勢力に約40億人、中立国に約30億人が居住しているとされる。また、プラント以外に在住するコーディネーター人口は約5億人と記録されている。

エネルギー事情においては、プラントでは太陽光発電が主流となっており、持続可能な発電体制が確立されていた。対照的に、地球国家では原子力発電が広く利用されていたが、ニュートロンジャマーの地球圏投下により、核分裂反応を利用する発電は不可能となった。このため、地球国家もまた太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーへの転換を余儀なくされている。

また、ニュートロンジャマーの副次的効果として電波通信が著しく阻害されたことから、地球上では各国が地下に有線通信網(通信ケーブル)を敷設し、これを新たな情報インフラとして活用している。

技術面では、量子コンピューターが民間および軍事の双方に広く普及しており、とりわけモビルスーツ(MS)関連の分野では、動作制御から戦術演算、さらには実機製造前の性能シミュレーションに至るまで、多岐にわたって利用されている。

宇宙開発(C.E.9~C.E.73)

C.E.9年、L1宙域において次世代型国際宇宙ステーション「世界樹」の建設が再開され、C.E.11年に竣工を迎えた。この完成を契機として、宇宙ビジネスとコロニー建設構想は本格的に進展し、資材供給拠点として月面都市「コペルニクス」の建造も開始される。

軍事面では、C.E.35年に大西洋連邦が月面に軍事基地「プトレマイオス」を建設。これにより国際社会から強い批判を受けたが、結果的に宇宙空間における軍拡競争の引き金となった。さらに、後にコーディネーターの居住地となるプラント群の建設も進められ、C.E.38年にはL5宙域にて正式に建設が開始されている。

『機動戦士ガンダムSEED』の舞台となるC.E.70〜71年の時点では、以下のような拠点が確認されている:

  • L5宙域:プラント(コーディネーター居住区)
  • L3宙域:オーブ連合首長国の管理下にあった工業コロニー「ヘリオポリス」や、地球連合の軍事拠点「アルテミス」などが存在
  • L4宙域:複数の中立コロニーが点在し、政治的にも経済的にも独自の立場を保っていた

さらに、C.E.73年には人類が火星圏への入植に成功しており、宇宙開発の領域は地球圏を超えて火星圏にまで拡大することとなった。

ロリポップ!

『機動戦士ガンダムSEED』の舞台まで(~C.E.71年)

コーディネーターの出現と社会的分断の深化

C.E.15年、人類初のコーディネーターであるジョージ・グレンは、自らが遺伝子改変によって生まれた存在であることを公表し、さらにコーディネーターの設計・生成に関する技術情報を世界中に公開した。この告白は、人類社会に大きな衝撃を与え、コーディネーターの是非を巡る世界的混乱を引き起こすこととなった。

翌C.E.16年には、地球連合の前身である国際連合が「国連遺伝子資源開発会議」を開催し、ここで「人類の遺伝子改変に関する議定書」が採択された。これにより、国連加盟国において合法的なコーディネーターの生成は全面的に禁止されることとなる。しかしながら、地下では依然として非合法な遺伝子操作が続けられ、C.E.17年にはコーディネーターの誕生に関与していたシカゴ病院が焼き討ちを受け、職員や患者が虐殺される事件が発生した。

C.E.30年には、世界各地の主要宗教指導者が集まり、コーディネーターの存在について協議が行われたものの、立場の違いから合意形成には至らず、その結果として宗教界の権威は著しく失墜することとなる。これにより、社会全体における遺伝子改変への心理的な抑制が弱まり、コーディネーター誕生に対する抵抗感も急速に低下していった。

C.E.40年頃には、コーディネーターたちが芸術・スポーツ・学術などの分野で顕著な成果を上げ、その身体的・知的能力における優越性が明確化されるようになると、ナチュラル(自然出産による人間)との能力格差が社会問題化し始める。これに伴い、反コーディネーター感情も次第に悪化。特に、宗教過激派や環境保護を掲げるブルーコスモスなどの排外主義団体が中心となり、過激な差別主義運動が展開されていく。

こうした情勢に対応するため、C.E.50年にはコーディネーター側の政治的代表組織として、「黄道同盟(Zodiac Treaty)」が結成される。創設にはパトリック・ザラやシーゲル・クラインらが関与し、プラントの自治権および貿易の自主権獲得を主要目標として掲げた。

C.E.53年、ジョージ・グレンがナチュラルの少年によって暗殺されるという事件が発生。さらに翌年には、世界規模でS2型インフルエンザが蔓延し、これが「コーディネーターによる報復」であるとの噂が流布されたことで、社会不安と反コーディネーター感情は頂点に達した。この感染症はプラントによって開発されたワクチンにより鎮静化したものの、地球在住のコーディネーターたちは身の安全を求めて本格的にプラントへの移住を進めることとなった。

その後、S2型インフルエンザの流行を契機に宗教界が権威を部分的に回復し、地球における倫理的・宗教的な反コーディネーター運動は一層先鋭化する。そしてC.E.55年には、「遺伝子改正禁止に関する協定(通称:トリノ議定書)」が採択され、遺伝子操作は再び法的に禁止されるに至った。

こうして、コーディネーターとナチュラルとの分断は決定的となり、地球圏全体において深刻な社会的対立構造が固定化されていくこととなった。

ZAFTの成立と地球連合との対立激化:C.E.65〜70の政治動向

C.E.65年、プラント最高評議会において政権与党となっていた黄道同盟は、同盟の発展および軍事組織化を目的として、「自由条約黄道同盟ZAFT(Zodiac Alliance of Freedom Treaty)」を結党した。これは、単なる政治結社から軍事的自衛力を有する組織へと変貌する過程の一環であった。のちにパトリック・ザラの指導のもと、旧ZAFTは一旦解体され、警察保安組織と統合・再編のうえで、モビルスーツ(MS)を主力とする新生ZAFTが正式に創設されることとなる。

C.E.69年、当時の最高評議会議長シーゲル・クラインの指導により、プラントはユニウス市第7〜10区画を食料自給体制の中核として再構築し、穀物生産用プラントとしての機能転換を実施した。これは、プラントの経済的・社会的な自立性強化政策の一環であり、地球側の依存関係からの脱却を象徴する施策でもあった。

しかし、これにより既存の穀物利権を脅かされることを恐れた地球連合の中核国家(大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国)は、これを実力で排除しようとした。だが、ZAFTのMS部隊による防衛行動により、地球側の軍事的干渉は阻止された。

両者間の外交交渉が平行線をたどる中、C.E.70年1月1日、プラント評議会の評議員がテロ攻撃により死亡する事件が発生。このテロには地球側理事国の関与が強く疑われ、これを受けてプラントは地球圏への物資輸出を全面停止する決定を下した。地球国家、とりわけ連合諸国は、プラントの高度な生産能力に経済的依存を抱えていたため、これにより急速な物資不足と社会不安が引き起こされた。また、同時に反プラントおよび反コーディネーター感情が爆発的に拡大することとなる。

続くC.E.70年2月5日、国連事務総長の提案により、プラントと理事国の首脳による和平交渉の場として「月面会議」が開催される。しかし、会議開催中に爆破テロが発生し、地球側の理事国代表者および国連事務総長を含む国際連合の上層部が死亡するという未曾有の惨事が起こった。これがいわゆる「コペルニクスの悲劇」である。

この事件について、大西洋連邦はプラントによるテロ行為であると一方的に断定し、これをナチュラル全体に対する宣戦布告とみなすと発表した。これに伴い、機能不全に陥った国際連合に代わる新たな国際秩序の枠組みとして、「地球連合」が設立され、地球圏全体を巻き込んだ戦争状態が不可避な段階へと突入することとなった。

開戦:第一次連合・プラント大戦

C.E.70年2月11日、地球連合は正式にプラントへ宣戦布告を行い、これにより両勢力間の緊張はついに戦争状態へと突入した。わずか三日後の同年2月14日、地球連合軍のプトレマイオス基地艦隊が発射した核ミサイルにより、プラントの農業用コロニー「ユニウスセブン」が壊滅する事態が発生する。

この事件は後に「血のバレンタイン」と呼ばれ、パトリック・ザラの妻レノア・ザラを含む24万3721人が死亡するという未曾有の惨事となった。事件の衝撃はプラント社会に計り知れない影響を与え、パトリック・ザラを筆頭とする強硬派による報復行動が加速する結果となった。

なお、この核攻撃はブルーコスモスに属する地球連合軍の一部将校による独断的行動であったが、地球連合政府および軍上層部は核攻撃の事実を否定し、ユニウスセブンはプラントによる自爆作戦であったとするプロパガンダを展開した。この虚偽報道は、ナチュラルとコーディネーターの分断を一層深刻化させた。

続くC.E.70年4月1日、ZAFTは報復措置として赤道封鎖作戦「オペレーション・ウロボロス」を発動。作戦の一環としてニュートロンジャマーを地球全域に散布し、核分裂を利用した原子力発電を機能不全に陥らせた。

この結果、地球上では深刻なエネルギー危機が発生し、さらにニュートロンジャマーの副次的な電波遮断効果により、グローバルな情報通信網は寸断され、各地の経済・社会インフラは機能不全に陥る事態に発展した。

以後、地球とプラントの全面戦争は、地球圏全域に戦線を拡大し、各戦域において激しい戦闘が続くこととなる。こうした混乱の最中、C.E.71年1月25日、中立コロニー「ヘリオポリス」において、地球連合軍が極秘裏に開発していたG兵器(初期型GAT-Xシリーズ)の奪取を目的として、ZAFTのクルーゼ隊が急襲を敢行。この事件をもって、テレビアニメ作品『機動戦士ガンダムSEED』の物語が幕を開ける。

参考文献

  • Wikipedia
  • 『機動戦士ガンダムSEEDモデルVol.3 SEED MSV編』ホビージャパン
  • 『機動戦士ガンダムSEED コズミック・イラ メカニック&ワールド』双葉社
  • 『機動戦士ガンダムSEED オフィシャルファイル キャラ編Vol.1』講談社
  • 『電撃データコレクション 機動戦士ガンダムSEED外伝2』メディアワークス
  • 『データコレクション 機動戦士ガンダムSEED DESTINY 下巻』メディアワークス
  • 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY ASTRAY 1』角川書店
  • 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY ASTRAY 下巻 絆を求める者』メディアワークス

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