MS-05 ザクⅠは、ジオン公国軍によって開発・配備された史上初の量産型モビルスーツ(以下MS)であり、その登場は戦場における兵器体系を大きく変革した。後に登場するMS-06 ザクⅡに主力機の座を譲るものの、ザクⅠはモビルスーツ戦術の基礎を確立した機体として、軍事史において極めて重要な位置を占める。その存在は、MSという兵器カテゴリの幕開けを告げると同時に、戦場の常識を根本から覆すものであった。
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人類史上初のモビルスーツ開発
試作と競争
ジオン公国軍はU.C.0070年代初頭、ミノフスキー粒子散布下での戦闘に適応する新兵器としてMSの開発に着手した。ジオニック社は先行してZI-XA3を発展させたMS-01を提出し、続いて試作機YMS-05A「ザク」を開発。これに対抗してツィマット社はEMS-04 ヅダを投入したが、ヅダは性能は高いものの安定性に難があり、テスト中の爆発事故が決定打となって不採用に至った。こうしてジオニック社製のザクが制式採用されることになる。
後日、正式採用された「MS-05 ザクⅠ」は以降のMSと比較すると未成熟であったと言わざるを得ないものの、歩行やAMBACによる姿勢制御、マニュピレーターを使用したオプション兵装の使い分け、ミノフスキー粒子散布下での有視界戦闘などMSの基本は確立していた。
教導大隊によるフィードバック、そして量産へ
試作機はU.C.0074年2月に完成し、同年から実地試験が繰り返された。その成果を受けて翌0075年7月には量産化が決定し、8月には1号機がロールアウトした。同年11月には、27機の初期生産型MS-05Aをもって教導大隊が月面グラナダ基地にて編成され、モビルスーツ戦術の研究および搭乗員の育成が開始された。なお、この教導大隊はキシリア・ザビの指揮の下、シャア・アズナブルや黒い三連星など、後のエースパイロットが所属していた。
教導大隊では各種装備試験、戦技研究、実働訓練が並行して行われ、MSという新兵器の運用ノウハウが急速に蓄積されていった。その後、教導大隊からのフィードバックを受け、コクピット構造の改良や装甲材質の見直しなどが施され、MS-05Bとして本格的な量産体制へと移行。最終的な総生産数は793機に達したとされる。
初実戦と内戦介入
ザクⅠはU.C.0077年、サイド6で発生した革命運動への武力援助任務に投入され、これがモビルスーツの初めての実戦投入であったと記録されている。また、宇宙世紀0078年10月、ジオン本国であるサイド3のコロニー「キンツェム」において発生した反ザビ家勢力によるクーデターに対し、本機が投入され、鎮圧に大きく貢献した。このように、ザクⅠは本格的な戦争開戦以前から、すでに実戦経験を積み重ねていた。
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特徴的な外観と構造
特徴的な構造と外観
ザクⅠの特徴的な外観は、まず動力伝達機構である流体パルス駆動系をすべて機体内部に収めるという設計思想に現れている。これにより被弾箇所が減少し、防御面において優位なスマートな外観となった。
さらに、頭部正面にはモノアイ(単眼センサー)を保護するためのガードが装着されており、視覚装置の保護と外見上の識別性を兼ね備えた実用的な意匠となっている。全体として、実用性と安全性、設計美のバランスを追求した機体と言える。
構造的欠点
しかし、装甲内部にすべての流体パルスパイプを収めた設計が冷却を困難にし、また初期の熱核融合炉の出力不足もあり、継戦能力や運動性能には限界があった。そのため、より実戦向きの次期主力機の開発が急がれ、ジェネレーターの出力向上、冷却機能の強化を施した後継機「MS-06 ザクⅡ」の誕生へとつながる。
ザクⅡの登場以降、MS-05は区別のために「ザクⅠ」と呼ばれるようになり、やがては「旧ザク」という愛称が定着していった。
カラーリングと識別性
機体性能とは直接関係ないものの、ジオン軍のMSにおいては部隊識別や階級表記も考慮されたマーキングが施されることが多く、エース機においては独自のカラーリングが認められた。赤い彗星と呼ばれたシャア・アズナブルや、黒い三連星の機体は、その二つ名の由来になる機体色に染め上げられていた。
一方、ザクⅠの基本塗装は、ジオン軍標準のグリーンとダークブルーを基調としており、この配色は視認性とカモフラージュ性能のバランスを考慮したものであった。また、後期には指揮官機仕様としてアンテナ付きの頭部も確認されている。
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戦争における活躍
一週間戦争からルウム戦役
一年戦争初期の一週間戦争からルウム戦役において、多くのザクⅠがジオン公国宇宙軍に配備された。人類初の大規模宇宙戦闘であり、モビルスーツが本格的に実戦投入された初の宇宙空間戦闘において、同機は極めて高い戦果を挙げた。
当時の戦艦や戦闘機が追随できない三次元的な機動力、堅牢な装甲と圧倒的な火力を有するMSは、圧倒的な物量差を覆し、連邦軍に大きな衝撃を与えた。この戦いによって、ジオン初の技術であるMSの性能は証明され、軍事兵器の歴史に名を刻むこととなった。
ザクⅠの活躍により、ジオン公国のコロニー落としは実行に移され、人類史上最悪の虐殺が行われる結果となった。
戦争後期における運用
MS-06 ザクⅡの量産が進むとザクⅠは後方支援や守備任務といった二線級任務へと移行したが、それでも多くの機体が戦争終盤まで現役を維持した。熟練パイロットの中にはザクⅠの操作性や安定性を高く評価し、乗り換えを拒否して本機を使い続けた者も存在する。
最終決戦であるア・バオア・クー戦にも本機が出撃しており、地上戦においても戦力不足を補うため多数が投入されていた。こうした経緯から、ザクⅠは旧式機とされながらも最後までジオン軍の主力を支え続けた名機と言われる。

主兵装解説
ZMP-47D 105mmマシンガン
ザクⅠの標準装備。ザクⅡ用120mmマシンガンの原型となる。装弾数や構造は異なるが、運用思想は共通している。ドラムマガジンは右側に縦置きされ、左手側に設けられたフォアグリップは機体可動域を考慮した設計。威力に関しては105mmという口径ではやや不足しており、後に120mm口径のZMP-50Bに拡大されたという説も存在する。
H&L-SB21K/280mmA-N ザク・バズーカ
大型の対艦・対要塞用火器。様々な弾種を装填可能であり、核弾頭運用を想定したバリエーションも存在する。運用時には右肩上部に専用ラックを増設し、反動制御と携行性を両立していた。形状は弾倉が存在しないシンプルな円筒形状。
ヒート・ホーク
加熱された刃によって敵機体の装甲を切断する近接格闘兵器。当初はMS同士の格闘戦を想定していなかったが、実戦での有効性が認識されて以降は必携装備となった。エネルギー供給は機体から行われ、切断力は非常に高い。開発完了時期は初期機体のロールアウトから遅れ、ザクⅡA型の量産以降とされる。
ガス弾銃(GG弾ランチャー)
暴動鎮圧や非正規戦闘を想定した二連装のガス兵器。非致死性ガスのほか、GGガスと呼ばれる殺傷性の高い化学兵器も搭載可能であり、コロニー制圧作戦で使用された経緯から倫理的な問題も抱える。
マルチランチャー(対人兵器)
腰部や膝部、肩部に設置可能な小型爆発兵器。発射後に空中で炸裂し、散弾を周囲に拡散させることで歩兵や軽装甲車両への威嚇・攻撃に効果を発揮する。
スパイク・シールド
防御と攻撃を兼ね備えたシールド装備。前面には打突用のスパイクが設けられており、敵機との格闘戦での活用が想定されている。後のザクⅡではこのスパイクが左肩アーマーに転用され、装備の一体化が図られた。
シュツルム・ファウスト
誘導装置を持たないが、極めて高威力の使い捨てロケット兵器。主に戦争後期における対MS戦闘で多用され、軽量・簡便な構造により歩兵部隊にも配備された。
ムームーサーバー
結論
MS-05 ザクⅠは、単なる旧式機体ではなく、モビルスーツという新たな兵器体系の出発点となった革新的存在である。その設計思想や運用実績は、後のモビルスーツ開発と戦術運用に決定的な影響を与えた。「戦術を変えた機体」として、軍事技術史に名を残すにふさわしい機体である。
国力で劣るジオン公国が地球連邦との戦争に踏み切った戦力的根拠であり、ミノフスキー物理学を応用した革新的技術の結晶であった。ザクⅠが切り拓いた道筋は、その後の後継機に受け継がれ、戦争の主役は戦闘機など従来の兵器からMSに取って代わられた。その意味で本機は単なる1モデルの枠を超えた、戦術進化の象徴であるとも言えるだろう。
しかし一方で、同機の戦果がジオンの非人道的な作戦を支え、人類にとって未曾有の悲劇を生み出していく。そういった意味で、ザクⅠの登場は宇宙世紀における悲劇の象徴とも言えるかもしれない。
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引用文献
- 『ガンダムセンチュリー』みのり書房
- 『機動戦士ガンダム モビルスーツバリエーション1 ザク編』講談社
- 『機動戦士ガンダム モビルスーツバリエーション(2) ジオン軍MS・MA編』講談社
- 『ENTERTAINMENT BIBLE .1 機動戦士ガンダム MS大図鑑【PART.1 一年戦争編】』バンダイ
- 『ENTERTAINMENT BIBLE .39 機動戦士ガンダム 戦略戦術大図鑑 1年戦争全記録』バンダイ
- 『データコレクション9 機動戦士ガンダム 一年戦争外伝2』メディアワークス
- 『データガンダム キャラクター列伝[宇宙世紀編 I]』角川書店
- 『機動戦士ガンダム モビルスーツ開発秘録』竹書房
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