地球連邦首相官邸ラプラス / Prime Minister’s Residence Laplace of the Earth Federation

技術/設定

宇宙世紀へと改暦される以前の西暦時代、地球連邦政府は地球低軌道上に建設された宇宙ステーション「ラプラス」に首相官邸を設置していた。
この施設は、地球圏統合の象徴であると同時に、人類が本格的に宇宙へ進出する新時代の象徴的存在でもあった。
後に悲劇の舞台ともなるこのラプラスは、宇宙世紀の幕開けを告げる場所として歴史に刻まれている。

画像引用元:『機動戦士ガンダムUC』©創通・サンライズ

首相官邸

西暦時代、人類は爆発的な人口増加と環境破壊、資源の枯渇といった地球規模の危機に直面していた。これらの問題を根本的に解決するため、人類は地球外への移住、すなわち宇宙移民を決断するに至る。その政策を推進する統一的な国際政権として「地球連邦政府」が発足した。

しかし、政治的・経済的・宗教的な理由から連邦の設立や宇宙移民政策に反対する勢力も多く、地球各地で紛争が発生した。連邦政府はこれらの勢力を「分離主義者」と断じ、地球連邦軍による圧倒的な軍事力をもって鎮圧していった。この過程で、地球連邦は名実ともに人類を統べる中央権力へと変貌していった。

前身機関の創設から半世紀を経て、地球外居住施設としてスペースコロニーの建設に成功した連邦政府は、宇宙移民の正式開始をもって紀年法を西暦から「宇宙世紀」へと改めた。その改暦を宣言する舞台として選ばれたのが、地球低軌道上に位置する宇宙ステーション「ラプラス」である。ラプラスは地球連邦首相官邸を擁する政治的中枢であり、同時に人類が宇宙へ進出した新時代の象徴的存在であった。

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爆破テロ

首相官邸ラプラスにおける宇宙世紀改暦セレモニーの最中、突如としてラプラスは爆発・崩壊し一瞬にして瓦礫と化した。地球連邦政府は、この惨事を「分離主義勢力による爆破テロ」と発表している。爆発はマーセナス首相をはじめとする各国代表、官邸職員、報道関係者、さらには周辺を警備していた地球連邦軍艦隊をも巻き込み、多数の死傷者を出した。

この事件を契機として、連邦政府は分離主義組織およびそれを支援する諸国家に対する大規模な弾圧を開始する。政治的にも軍事的にも徹底した鎮圧政策の結果、地球連邦は人類史上初の「統一政権」としての基盤を確立し、その支配体制を揺るぎないものとした。
こうしてラプラスの崩壊は、皮肉にも地球連邦政府の権威を確立し、宇宙世紀体制を決定的にする転機となったのである。

宇宙世紀の幕開けを象徴するはずであったラプラスは、その崩壊によって新時代の黎明を血に染めた。宇宙世紀の原罪を刻む記念碑ともなったこの事件は、人類史における最大の政治的悲劇として後世に語り継がれることになる。

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スタンフォード・トーラス型スペースコロニー

宇宙ステーション「ラプラス」は、後のスペースコロニー群とは異なり、スタンフォード・トーラス型の設計思想に基づいて建造された初期の軌道居住施設である。

スタンフォード・トーラスとは、直径約1.8kmのドーナツ状(トーラス型)構造体を基本単位とする宇宙居住区の設計案であり、その全体を1分間に1回転させることで遠心力を発生させ、外周部内部において約0.9〜1.0Gの人工重力を形成することを可能とする構造である。
採光は太陽光を外部の可動式反射ミラー群で取り込み、複数段階の導光機構を介して居住空間内部へ供給する方式を採用していた。

ラプラスでは、上下に展開する銀板状の巨大ミラーブロックが中央の回転ドーナツ部を挟み込むように配置されており、それぞれのミラーブロックは千枚規模の微細な凹面鏡ユニットによって構成されていた。これらの鏡面群を制御プログラムにより動的に調整することで、雲量や降雨などの気象変化を模倣することも可能であったとされる。

トーラス部は主として居住区および農業区画として設計され、複数のスポーク状構造体によって中央ハブと接続されていた。これらのスポークは人員移動および物資輸送の主要経路として機能し、内部には加圧チューブ式のシャトルリニアが通っていたとも推定される。
一方、ハブは回転軸上に位置するため人工重力がほとんど発生せず、宇宙船のドッキングベイや中枢管制区画として利用されていた。

理論設計上、トーラス内部には約1万人から最大14万人規模の人口を収容可能であり、内部の植生管理・気候制御・昼夜サイクルの統合制御によって、地球環境を高度に再現した閉鎖生態系を実現できるとされた。
その理念においてラプラスは、単なる宇宙拠点ではなく、「地球外における理想的居住圏」として構想された存在であり、宇宙世紀黎明期における人類の理想主義と技術的野心の象徴的建造物であった。

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爆破に至った構造的要因

宇宙世紀改暦セレモニー当日、地球連邦政府は首相官邸ラプラスの外郭に設置されたミラーブロックを用いた演出を企画していた。任意の凹面鏡を動作させることで太陽光を地球へと反射し、夜側の大気圏上に「Good bye, AD Hello, UC!」という光文字を描き出す計画であった。
この制御には、各ミラーの角度変更プログラムを個別に制御装置へ直接インストールする必要があり、セレモニー開始前には契約電機メーカーの技術員が最終調整作業を実施していた。後に、この技術員らが事件の実行犯であったことが判明している。

彼らによって改ざんされた角度変更プログラムは、太陽光の反射方向を地球ではなく、ラプラス構造体内部の一点へと向けるよう設定されていた。反射された高エネルギー光束は、居住ブロック内の環境制御系に接続する水循環パイプ群の一部に集束。瞬間的な過熱により、内部水分は爆発的に気化し、局所的な圧力上昇を引き起こした。
これにより一次爆発(蒸気爆発)が発生し、配管の破断および接続部の損壊が連鎖的に生じた。

続いて、過熱された環境下で水蒸気から分離した水素が酸素と反応し、二次爆発(水素爆発)を誘発。爆発波はトーラス内壁を伝って急激に拡散し、居住ブロック内部の気圧を制御限界以上に押し上げた。過圧による破壊衝撃は外殻構造体を内側から押し広げ、これによりトラス構造が座屈・剪断を起こし、外郭の一部が崩壊。
発生した爆風および高温ガス流は隣接するミラーブロックを粉砕し、反射ミラーの支持構造を連鎖的に破断させた。結果として、ミラー群と居住ブロックを結合していたメインシャフトが捻じれ応力と熱膨張によって破断し、ステーション全体のバランスを失わせた。最終的に、ラプラスは構造的崩壊を起こし、周辺宙域に破片を飛散させながら完全に瓦解した。

なお、飛散した破片の一部は警備にあたっていた地球連邦軍の宇宙警備艇群にも衝突し、局所的な二次被害を発生させたと記録されている。

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