ラー・ザイムは、宇宙世紀0090年代において地球連邦軍の主力艦艇として建造されたクラップ級戦艦の一隻である。劇中での登場シーンこそ限られているものの、アムロ・レイが配属された艦として知られており、その存在は一部のファンや軍事的視点からガンダムシリーズを考察する層にとって、特筆すべきものである。
本記事では、ラー・ザイムという艦が担った軍事的役割と、反地球連邦組織への対応を担うロンド・ベルの中で果たした意義を中心に、その知られざる足跡をたどっていく。
![]() |

次期主力戦艦の特徴
クラップ級戦艦とは:設計思想
宇宙世紀0090年代、地球連邦軍はジオン残党の継続的な抵抗運動や、アクシズをはじめとする新たな敵対勢力への対処を迫られていた。たび重なる内乱や局地戦への対応には、既存の艦艇では対応力に限界があり、より機動性と即応性に優れた新世代の主力艦艇が求められていた。
この要請に応じて開発・配備されたのが、クラップ級戦艦である。
クラップ級は、旧世代のサラミス改級やマゼラン級に代わる戦力として設計され、艦艇としての汎用性と高い機動性能を両立した構造を持つ。最大の特徴は、モビルスーツ(MS)運用能力を重視した設計であり、艦内にはMS用格納庫と発進デッキが設けられ、複数機のMSを迅速に出撃させる能力を備えている。
武装
ラップ級の武装は、敵艦との交戦のみならず、MS戦や防空にも対応可能な構成となっている。
- 主砲: 両舷に各1基ずつ、2連装のメガ粒子砲塔を搭載。艦の主力火器として対艦・対MS戦に用いられる。
- ミサイル兵装: 艦首には6門のミサイル発射管、さらにブリッジ後方には8連装のミサイル・ランチャーを装備。中~長距離の打撃力を補完する。
- 対空火器: 艦の周辺防衛には単装対空機銃が基本として配置されており、加えてブリッジ側面には連装砲も搭載され、近接防衛能力の向上が図られている。
これらの武装により、クラップ級は単艦行動から艦隊運用、MS母艦としての役割まで、高い戦術的柔軟性を発揮することが可能であった。
設計上の課題
クラップ級は、実戦経験を積んだ連邦軍が戦訓をもとに設計しただけあり、MS運用能力や汎用性では前世代艦を明確に上回る性能を有していた。一方で、その設計にはいくつかの課題や限界も存在した。
まず、MS搭載数は最大で4~6機とされており、ペガサス級のような本格的なMS母艦に比べれば運用能力は限定的である。特に、搭載数に対して出撃用カタパルトが1基しかないという点は、同時出撃の面で足かせとなった。
また、クラップ級の装甲は重装甲艦に比べて中程度と見られ、長期的な砲撃戦への耐久性よりも機動性と整備性を重視した設計であると推察される。
ラー・カイラム級との比較
クラップ級と同時期に開発された戦艦として、しばしば比較対象に挙げられるのがラー・カイラム級戦艦である。アムロ・レイの搭乗艦「ラー・カイラム」を筆頭とするこの艦級は、クラップ級に比べて一回り大型で、MSの搭載能力、砲火力、カタパルト数において上回っている。
項目 | クラップ級 | ラー・カイラム級 |
---|---|---|
全長 | 約300m | 約400m |
MS搭載数 | 4〜6機 | 最大10機前後 |
カタパルト | 1基 | 複数基(通常2基) |
主砲火力 | 中 | 高 |
旗艦適性 | 低〜中 | 高 |
設計目的 | 汎用・即応型 | 指揮・多目的艦 |
この比較からも明らかなように、クラップ級は中型の機動打撃艦としての役割に最適化されており、艦隊の旗艦としての能力はラー・カイラム級に譲る一方、即応部隊の主力艦としては非常に優秀であった。
艦載機
- MSK-008R リック・ディジェ(アムロ・レイ搭乗機)
- RMS-179 ジムⅡ
- RGM-86R ジムⅢ
- RGM-89 ジェガン
![]() |


ラー・ザイムの軌跡
アムロ・レイとの関わり
ラー・ザイムは、アムロ・レイがロンド・ベルに配属された当初に乗艦していた戦艦として記録されている。これは、彼が後に旗艦ラー・カイラムに異動する以前の時期にあたる。配属時期は、第一次ネオ・ジオン抗争(グリプス戦役後の混乱期)におけるコロニー落とし事件から、同抗争の最終局面に至るまでの間とされる。
この期間、アムロはティターンズ残党やネオ・ジオンの遺党に対する討伐任務に従事しており、行方不明となっていたシャア・アズナブルの動向を探っていたとされる。
さらに、宇宙世紀0092年、連邦軍所属艦「ラー・ギルス」が消息を絶った事件に関連し、アムロは同艦の捜索任務に関与したとされる。この任務を通じて、後に展開される『機動戦士ムーンガンダム』の物語へと繋がる流れが生まれることになる。
劇中での活躍
宇宙世紀0093年に勃発した第二次ネオ・ジオン抗争において、ラー・ザイムはロンド・ベル所属艦として、アクシズの地球降下阻止作戦に参加していたとされる。
劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』では、ラー・ザイムの具体的な戦闘描写は明確にされていないが、複数の小説版においてその動向が描かれている。
- 小説版『逆襲のシャア(ハイ・ストリーマー)』(富野由悠季 著)では、ラー・ザイムはルナツー付近でネオ・ジオン軍に拿捕されるというエピソードが登場し、同艦が敵の手に一時的に渡っていた可能性が示唆されている。
- 一方で、別系統の小説版である『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』では、ラー・カイラムの前衛として行動中、ニュータイプ専用大型モビルアーマー「α・アジール」の猛攻により撃沈されるという展開が描かれている。
これらはいずれも映像作品とは異なるパラレルな解釈であるが、いずれの記述においてもラー・ザイムがロンド・ベルの作戦行動において一定の役割を果たし、また重要な犠牲を払った存在であることに変わりはない。
![]() |

登場作品
- 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
- 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ハイ・ストリーマー
- 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン
- 機動戦士ムーンガンダム
参考資料
- 『機動戦士ガンダム 艦船&航空機 大全集』アスキー・メディアワークス
- 『ニュータイプ100%コレクション10 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』角川書店
- 『週刊ガンダム・ファクトファイル』デアゴスティーニ・ジャパン
- 『逆襲のシャア(ハイ・ストリーマー)』徳間書店
- 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』角川スニーカー文庫
- 『機動戦士ムーンガンダム』KADOKAWA
![]() |

![]() |

![]() |

![]() |

![]() |

関連記事
