宇宙世紀0087年から0088年にかけて勃発した「グリプス戦役」は、地球連邦内部の派閥抗争を発端に、ジオン残党勢力の介入を受けて三つ巴の全面戦争へと拡大した。本戦役は『機動戦士Ζガンダム』の中心的事件であり、地球圏の覇権構造を大きく揺るがす転換点となった。
この戦いは、地球連邦軍における権力構造を変化させ、やがて第一次ネオ・ジオン抗争へとつながる重要な契機となった。本記事では、その経緯と意義について解説する。

画像引用元:『機動戦士ΖガンダムIII A New Translation -星の鼓動は愛-』 ©創通・サンライズ
ティターンズの成立と暴走
一年戦争後の政治的空白とジャミトフ・ハイマンの台頭
宇宙世紀0079年に終結した一年戦争は、地球連邦に甚大な人的・物的損害を残した。とりわけジオン軍によるコロニー落としの記憶は、アースノイドの間にスペースノイドへの恐怖と憎悪を深く植えつけることとなった。
戦後の連邦内部では、軍の統制機構が混乱するなかで権力再編が進み、その過程で頭角を現したのがジャミトフ・ハイマンである。宇宙世紀0083年10月、ジオン残党勢力「デラーズ・フリート」による反乱が勃発すると、ジオン残党の脅威は改めて強く認識されることとなった。ジャミトフはこの状況を利用し、残党掃討を大義名分として地球連邦軍内に精鋭部隊「ティターンズ」を創設したのである。
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ティターンズの権限拡大とスペースノイド弾圧
ティターンズは、設立当初こそ秩序回復を掲げた治安部隊であったが、やがて地球至上主義を標榜し、スペースノイドへの過剰な弾圧へと傾斜していった。連邦政府議会がその行き過ぎた取り締まりを黙認したこともあり、ティターンズは連邦軍内部で増長し、階級や軍規を無視した専横的な行動が常態化していく。
象徴的な「30バンチ事件」では、民間人居住区に対して毒ガス攻撃という非道な手段が用いられ、その存在意義と行動原理に対する激しい批判を招いた。この事件以降、スペースノイドのティターンズへの反発は決定的なものとなり、連邦内部の反対派やジオン残党の結束を促進する。結果として、反地球連邦政府組織「エゥーゴ」や、地球上での反連邦ネットワーク「カラバ」が誕生する契機となったのである。
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エゥーゴの成立と武力抗争への発展
ブレックス・フォーラと反地球連邦の形成
ティターンズの暴走に対抗するため、地球連邦議会に籍を置くブレックス・フォーラ准将が中心となって結成された組織が「エゥーゴ(AEUG)」である。その構成は、連邦内部の反ティターンズ派閥に加え、ティターンズによって不利益を被った財界人や政治家、さらにはジオン残党や反政府活動家にまで及ぶ、多分野からの寄り合い的集団であった。
エゥーゴはスペースノイドの支持を基盤としつつ、地球連邦軍を母体とすることで正統性を装い、やがてアナハイム・エレクトロニクス社の技術的・物資的援助を受けることで、ティターンズと対抗可能な軍事組織へと発展していった。こうして反発の域を超え、両者は武力抗争へと突き進むことになる。
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コロニー侵入事件とジャブローの核攻撃
宇宙世紀0087年3月、サイド7・グリーンノア2におけるエゥーゴのガンダムMk-Ⅱ強奪事件を契機として、エゥーゴとティターンズの対立は表面化した。
同年、エゥーゴは連邦軍本部ジャブローへの降下作戦を実施するが、ティターンズは自爆用核弾頭を用いた報復行動に出る。結果としてジャブローは壊滅し、その後の情報操作により、核兵器を使用したのはエゥーゴ側であると喧伝された。このプロパガンダ工作は世論をティターンズ寄りに傾ける効果を発揮した。
ジャブロー消滅の報道は、地球連邦軍が二つの勢力に分裂し、武力抗争を開始したことを一般市民に明示する契機となったのである。
抗争の複雑化と第三勢力の介入
エゥーゴ指導者の暗殺
宇宙世紀0087年8月24日、連邦議会に出席予定であったブレックス・フォーラ准将は、ティターンズの刺客によって暗殺される。臨終の間際、彼は同行していたクワトロ・バジーナに、自らの正体である「シャア・アズナブル」としてエゥーゴの指揮を継ぐよう託したと伝えられる。
ブレックスの死はエゥーゴに深刻な打撃を与えると同時に、政治的にも重大な転機をもたらした。彼の不在となった議会では、ティターンズに地球連邦軍の全指揮権を委譲する法案が満場一致で可決され、ティターンズは名実ともに地球圏最大の軍事権力を掌握するに至った。こうしてエゥーゴとティターンズの抗争は単なる派閥間闘争の域を超え、地球圏全体を巻き込む内戦へと発展していく。
第三勢力の登場、アクシズの帰還
宇宙世紀0087年10月、ジオン残党軍であるアクシズが遂に地球圏へ帰還する。名目上はザビ家最後の後継者ミネバ・ラオ・ザビを旗頭としつつも、実質的な指導者として行動したのは摂政ハマーン・カーンであった。アクシズは当初、エゥーゴとの共闘を模索するが交渉は決裂し、結果的にティターンズと協力関係を構築することに成功する。
だが、この同盟はティターンズにとって致命的な矛盾を孕んでいた。そもそもティターンズは「ジオン残党討伐」を旗印に成立した部隊であり、その存在意義の根幹と真っ向から矛盾するものであった。アクシズとの提携は、ティターンズの大義を自ら掘り崩す結果となり、正統性を決定的に失わせる伏線ともなったのである。
ダカール演説と世論の変化
宇宙世紀0087年11月16日、エゥーゴはダカールの連邦議会を占拠し、クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)が自らの正体を明かしてティターンズの非道を告発する歴史的演説を行った。その様子は全世界に放送され、演説を武力で妨害しようとするティターンズの姿も同時に映し出されることとなった。
市街地を戦場に変え、議会の破壊すら辞さないティターンズの行動は人々の強い反発を招き、世論は急速にエゥーゴ支持へと傾いていく。このダカール演説は、エゥーゴとティターンズの立場を逆転させた決定的な契機として、本戦役のターニングポイントに位置づけられている。
戦役の終結から第一次ネオ・ジオン戦争へ
ティターンズの衰退
ティターンズは起死回生を狙い、グリプス2を改修してコロニーレーザーとした。しかし、エゥーゴと手を結んだアクシズの策略により、本拠地「ゼダンの門」を失う。
その直後、指導者ジャミトフ・ハイマンがシロッコの謀略で暗殺される。シロッコはその罪をハマーンに押し付け、報復を口実にティターンズの実権を掌握。軍務トップのバスク・オムも部下を使って葬り去り、権力基盤を固めた。
だが、シロッコの下で統制を取り戻したティターンズも、戦力の消耗とグリプス2の喪失によって劣勢に追い込まれていった。
エゥーゴの勝利とアクシズの台頭
宇宙世紀0088年2月、エゥーゴは「メールシュトローム作戦」によってグリプス2を奪取し、コロニーレーザーをティターンズ艦隊へと放った。この一撃でティターンズは壊滅的打撃を受け、指導者シロッコも戦死。ティターンズは事実上、解体の運命を迎える。
しかし、勝利したエゥーゴもまた大きな代償を払った。艦隊とモビルスーツ戦力の多くを失い、グリプス戦役を終えた時点で、勢力としての維持は困難な状況に陥っていた。
その空白を突いたのが、宇宙に拠点を持つアクシズである。ハマーン・カーンの指導の下、アクシズは一躍主導権を握り、地球圏に新たな緊張をもたらす存在となった。こうしてグリプス戦役は、第一次ネオ・ジオン抗争の序章として幕を閉じるのである。
参考文献
- 『機動戦士Zガンダム』 サンライズ
- 『プロジェクトファイル Ζガンダム』SBクリエイティブ
- 『評伝シャア・アズナブル -《赤い彗星》の軌跡- 上』講談社
- 『機動戦士ガンダムMS大図鑑PART.2 グリプス戦争編』 バンダイ
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