宇宙世紀0087年から0088年にかけて展開された「グリプス戦役」は、地球連邦内部の派閥対立を発端とし、ジオン残党勢力の介入によって三つ巴の全面戦争へと発展した。この戦役は、『機動戦士Ζガンダム』における中心的な政治・軍事的事件であり、地球圏における覇権構造の転換点となった。
地球圏の最大勢力でもある地球連邦軍の権力構造の変更、そして第一次ネオ・ジオン抗争の発端となったこの事件について解説する。
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ティターンズの成立と暴走
一年戦争後の政治的空白とジャミトフ・ハイマンの台頭
宇宙世紀0079年に終結した一年戦争は、地球連邦に甚大な人的・物的被害をもたらした。特にジオン軍によるコロニー落としの記憶は、アースノイドのスペースノイドに対する恐怖と憎悪を醸成するに至っていた。
軍の統制機構にも深刻な混乱がもたらされており、戦後、連邦内部では権力再編が進行し、その中で台頭したのがジャミトフ・ハイマンである。彼は、未だ軍事衝突を繰り返すジオン残党の掃討を名目に、地球連邦軍内に精鋭部隊「ティターンズ」を設立した。
ティターンズの権限拡大とスペースノイド弾圧
ティターンズは、設立当初こそ秩序回復を掲げた治安部隊であったが、やがて地球至上主義を標榜し、スペースノイドへの過剰な弾圧へと傾斜していく。連邦政府議会が行き過ぎた取り締まりを黙認したこともあり、ティターンズは連邦軍内部で増長し、階級や軍規を無視した行動が常態化していく。
象徴的事件である「30バンチ事件」では、民間人居住区における毒ガス攻撃という非道な手段が用いられ、その存在意義と行動原理に対する強い批判を招いた。必然的にスペースノイドによるティターンズへの反発は高まり、連邦内部の対立派閥やジオン残党などの結束を促し、反地球連邦政府組織「エゥーゴ」や反連邦ネットワーク「カラバ」の誕生の切っ掛けとなる。
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エゥーゴの成立と武力抗争への発展
ブレックス・フォーラと反地球連邦の形成
ティターンズの暴走に対抗する形で、地球連邦議会に籍を置くブレックス・フォーラ准将が立ち上げた組織が「エゥーゴ(AEUG)」である。地球連邦内部の反ティターンズ派閥や、ティターンズによって不利益を被った財界人や政治家、果てはジオン軍残党や反政府メンバーなども参加した寄り合いのような側面もあった。
エゥーゴは、スペースノイドの支持を受ける形で組織され、地球連邦軍を母体として組織された。そして、アナハイム・エレクトロニクス社の支援を得て実質的にティターンズへ対抗できる軍事組織へと成長していく。
コロニー侵入事件とジャブロー核攻撃
宇宙世紀0087年3月、サイド7・グリーンノア2におけるエゥーゴのガンダムMk-Ⅱ強奪事件を契機に、エゥーゴとティターンズの対立は明確化する。
続くジャブロー降下作戦では、エゥーゴが連邦軍本部のあるジャブローへと侵攻。これに対抗する形でティターンズ側が自爆用核弾頭を用いた報復行動を行った。その後の報道操作によって、核爆弾を用いたのはエゥーゴ側とされ世論はティターンズに傾くこととなる。
ジャブロー消滅の報道を切っ掛けに、人々は地球連邦軍が二つの勢力に分かれて抗争を開始したことを知ることとなる。
抗争の複雑化と第三勢力の介入
エゥーゴ指導者の暗殺
宇宙世紀0087年8月24日、連邦議会に出席予定のブレックス准将が、ティターンズの刺客により暗殺される。ブレックスは同行していたクワトロ・バジーナに「シャア・アズナブル」としてエゥーゴの指揮を執るように言い残して息を引き取る。
ブレックス不在の議会では、ティターンズに連邦軍の指揮権を委ねる法案が満場一致で可決することとなった。
第三勢力の登場、アクシズの帰還
宇宙世紀0087年10月、ジオン残党軍であるアクシズが地球圏に帰還。ミネバ・ラオ・ザビを旗頭とし、ハマーン・カーンが実質的な指導者として行動するこの勢力は、当初エゥーゴとの共闘を模索するも交渉は決裂。対するティターンズは、アクシズとの協力関係を構築することに成功する。
しかし、ティターンズとアクシズの同盟は、ジオン残党討伐を目的とするティターンズの存在意義と大きく矛盾するものであり、その大義を失う結果となった。
ダカール演説と世論の変化
宇宙世紀0087年11月16日、エゥーゴはダカール連邦議会を占拠し、クワトロ・バジーナ(シャア・アズナブル)が自らの正体と出自を明かす歴史的な演説を敢行。ティターンズの非道性を訴えた。
演説を武力で妨害するティターンズの姿は演説と共に世界中に放送された。市街地であろうと平気で戦闘を行い、連邦議会の破壊すら実行しようとするティターンズの行為を目にした人々からは、ティターンズへの非難が溢れ、人心の離反を招くこととなった。
この演説を境に、エゥーゴとディターンズの立場は逆転し、人々の指示はエゥーゴに大きく傾いたことから、本戦役におけるターニングポイントとして記録されている。
戦役の終結から第一次ネオ・ジオン戦争へ
ティターンズの衰退
ティターンズはグリプス2を改修してコロニーレーザーとすることで起死回生を図る。しかし、エゥーゴと手を結ぶことによって離反したアクシズに策略により、宇宙の本拠地である「ゼダンの門」を失う。
更に、ティターンズの指導者であるジャミトフがパプテマス・シロッコの謀略により暗殺される。シロッコは暗殺の罪をハマーンに着せ、「報復」の名のもとにティターンズの実権を握ることに成功。軍務トップのバスク・オムを部下に殺害させ、自身の権力を盤石なものとした。
シロッコにより統制されたティターンズではあったが、戦力の多くを消耗し、切り札のグリプス2もアクシズに占領されたことにより形勢は大きく不利な状況に傾いていた。
エゥーゴの勝利とアクシズの台頭
宇宙世紀0088年2月、エゥーゴは「メールシュトローム作戦」によりグリプス2を奪取。これを用いてティターンズ艦隊に対してコロニーレーザーを発射し、壊滅的打撃を与える。シロッコは戦死し、ティターンズは事実上解体されるが、同時にエゥーゴも甚大な戦力を消耗。結果として、戦後の主導権を握ったのはアクシズであり、グリプス戦役は第一次ネオ・ジオン抗争への序章として幕を閉じることとなる。
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参考文献
- 『機動戦士Zガンダム』 サンライズ
- 『プロジェクトファイル Ζガンダム』SBクリエイティブ
- 『評伝シャア・アズナブル -《赤い彗星》の軌跡- 上』講談社
- 『機動戦士ガンダムMS大図鑑PART.2 グリプス戦争編』 バンダイ
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