ジオン軍は、宇宙世紀79年前後にジオン公国が保有していた正規軍であり、一年戦争後には「旧公国軍」と総称されるようになった。ギレン・ザビを総帥とする強固な軍政体制のもと、政治と軍事が密接に結びついた点がその特徴である。
同軍が特筆されるのは、地球連邦軍に先行してモビルスーツ(MS)を実用化した点にある。ザクⅠ・ザクⅡを中心とした機体群は、従来の兵器体系を一変させ、数と物量で勝る連邦軍に対しても互角以上に渡り合う戦術的優位をもたらした。
大戦初期におけるジオン軍の強さは、MSの性能だけでなく、宇宙戦術の先進性や柔軟な指揮体系など、多様な要素が結びついた結果である。ジオン軍は、後の宇宙世紀の兵器史・軍事史を語る上で不可欠な存在といえる。

1. ジオン軍の成り立ち
1-1. ジオン国防隊
宇宙世紀0058年にジオン共和国が成立すると、その防衛組織としてジオン国防隊が編成された。この国防隊が後のジオン軍の直接の前身である。
宇宙世紀0068年、共和国首相ジオン・ズム・ダイクンが急逝すると、政権は側近であったデギン・ソド・ザビの手に移り、国家体制は共和制から君主制へと転換された。これに伴い国名はジオン公国へと改められ、国防隊も正式にジオン公国軍として再編成される。
公国政府は、地球連邦政府との政治・経済的対立が深まる中で軍備拡張を本格化させ、MS開発を中心とする新兵器体系の整備と戦争準備を着実に進めていくこととなった。
1-2. 地球連邦を圧倒する新兵器開発
ジオン軍は、物量で圧倒的に優位に立つ地球連邦軍に対抗するため、ミノフスキー粒子散布下における軍事運用に活路を見いだした。ミノフスキー粒子はレーダーや長距離通信を著しく妨害するため、従来の戦術体系を根底から変革させるものであり、この環境下で真価を発揮する兵器として、ジオン軍は地球連邦軍に先駆けてモビルスーツ(MS)の開発・実戦配備に成功した。
ザクを中心とするMS兵力は、ミノフスキー粒子下で従来兵器を凌駕する運動性・近接火力・格闘性能を示し、一年戦争の緒戦において連邦軍を圧倒する決定的な要因となった。
さらにジオン軍は、核兵器・化学兵器の投入に加え、スペースコロニーを地球へ落下させるブリティッシュ作戦を敢行する。これは前例のない規模の戦略攻撃であり、地球人口の半数を死に至らしめたとされる甚大な被害を引き起こした。結果として、開戦から一か月足らずの時点で、地球連邦軍は敗北寸前の状況へと追い詰められることとなった。
1-3. 敗戦とジオン共和国軍への再編
一年戦争の序盤こそ、ジオン軍はMSの技術的優位と戦略的奇襲によって連邦軍を圧倒した。しかし、地球侵攻作戦の本格化に伴い、広大な戦域を維持するための補給線は伸びきり、戦略的な停滞を招くこととなった。加えて、地球連邦軍がMS開発に成功し量産体制へ移行すると、ジオン軍の兵器的優位は急速に薄れ、戦場の主導権は次第に連邦側へと移っていった。
その後、オデッサ作戦、チェンバロ作戦、星一号作戦といった連邦軍の反攻作戦が連続的に成功し、戦局は決定的に傾く。最終的にU.C.0079年12月31日、ア・バオア・クー攻防戦を経てジオン軍は敗北し、一年戦争は終結を迎えた。
終戦直前、公国政府は議会決議によりジオン共和国へと移行し、これにより戦後処理を担う主体が明確化された。共和国政府は連邦政府との間で終戦協定(いわゆる南極条約・休戦条項を含む政治合意)を締結し、戦後秩序の枠組みを構築していく。
戦後、ジオン共和国は公国軍残存勢力に対して投降勧告を実施し、武装解除と再編成を段階的に進めた。これにより、公国軍の生き残り部隊は共和国政府の管理下に置かれ、後にジオン共和国軍として再編成されることとなった。こうして旧公国軍は形式上消滅し、戦後秩序の中で新たな軍事組織へと移行する道を辿ることになる。
2. 組織構造と部隊編成
2-1. 総帥府(ペーネミュンデ機関)
総帥府は、ギレン・ザビによる権力集中体制を支える特務機関であり、別名「ペーネミュンデ機関」として知られる。本来は行政機関に属する政治組織であるが、軍の正式な指揮系統とは独立しながらも、軍事行動へ直接介入できる強大な権限を付与されていた点に、その特異性がある。
活動内容は多岐にわたり、プロパガンダ放送などの政治工作、諜報活動、反体制分子の摘発といった内務的任務に加え、特務士官を前線部隊へ派遣し「管理官」としてその行動を監視・統制する秘密警察的役割も担っていた。派遣される特務士官は、形式上の階級より二階級上の権限を持つ特別待遇を許されており、必要と判断すれば、赴任先の部隊を強制的に自らの指揮下に置くことすら可能であった。
劇中では、モニク・キャディラック特務大尉や、ギレンの秘書でありながら同機関の一端を担っていたとされるセシリア・アイリーンらが登場し、総帥府の存在が軍の現場にまで強い影響を及ぼしていたことが示されている。
総じて総帥府(ペーネミュンデ機関)は、ジオン公国における軍事・政治両面の統制を司る“国家権力の中枢”として機能し、ザビ家独裁体制を実質的に支える装置であったと位置付けられる。
2-2. ジオン公国軍総司令部
ジオン軍総司令部は、ギレン・ザビを総司令とするジオン公国軍全体の最高指揮機関であり、宇宙・地上を問わず全軍の作戦立案と統括を担う中枢組織である。その指揮系統下には、宇宙攻撃軍、地球制圧軍を含む突撃機動軍、および兵器研究・開発を担当する技術本部など、主要な軍事部門が包括的に配置されている。
総司令部には艦隊司令部も併設されており、戦時には戦域全体を俯瞰した広域指揮を行うことが可能であった。これにより、前線部隊の状況に応じて複数方面の艦隊を直接統制し、短期間で戦力を再配置するなど、ジオン軍の電撃戦的な戦術運用を支える柔軟な指揮体制が整えられていた。
総じて総司令部は、政治的中枢である総帥府とは別に、純粋な軍事作戦を主管する実務組織として機能し、ジオン軍の攻勢作戦や戦略決定を支える根幹的役割を担っていたと評価される。
2-3. 宇宙攻撃軍
宇宙攻撃軍は、ジオン軍が保有する戦力の中でも最大規模を誇る主力部隊であり、その総司令はザビ家の一員であるドズル・ザビ中将が務めた。主としてソロモン、ア・バオア・クーといった戦略的要衝の防衛および制宙権の確保を担当し、ジオン軍の宇宙戦全般を支える中核組織として位置づけられていた。
この部隊は、優秀な人材を多数擁した点でも特徴的であり、ランバ・ラル、アナベル・ガトー、シン・マツナガなどの実力者が名を連ねる。また、左遷以前のシャア・アズナブルも一時期本軍に配属されており、後に“赤い彗星”として知られる独自の戦歴を構築する端緒となった。
しかし、ソロモン攻防戦において甚大な損害を受け、その後のア・バオア・クー攻防戦までの間に戦力は事実上壊滅状態に陥った。なお、終戦後に残存兵力や人材の一部はアクシズへと合流し、後のアクシズ勢力(後のネオ・ジオン)の一大基幹を形成していくこととなる。
総じて宇宙攻撃軍は、一年戦争前半におけるジオン軍の攻勢を支える決定的戦力であると同時に、戦後の宇宙世紀史においても主要勢力へと継承される“系譜”を形作った部隊であった。
2-4. 突撃機動軍
突撃機動軍は、キシリア・ザビの指揮下に置かれたジオン軍の主要戦力であり、その拠点は月面都市グラナダに置かれていた。宇宙戦域では宇宙機動軍と呼称されることもあり、通常の正規部隊に加えて特殊部隊・教導部隊といった精鋭戦力を多数抱える点に特徴がある。
同軍は、キシリアが主導する諜報・特殊任務体系と密接に結びついており、ニュータイプ研究などの機密性の高い分野にも深く関与していたとされる。この意味で、突撃機動軍は単なる作戦部隊にとどまらず、公国軍の実験的軍事計画を担う一面を有していた。
所属人材も多彩で、マ・クベ大佐を筆頭に、黒い三連星、ジョニー・ライデン、軍籍復活後のシャア・アズナブルなど、顕著な戦果を残したエースパイロットが多数名を連ねる
一年戦争末期のア・バオア・クー戦においても、突撃機動軍は戦力の大半を温存することに成功し、その残存兵力は戦後の勢力再編に大きく影響を与えた。主力部隊はアクシズへと撤退して後のアクシズ勢力(のちのネオ・ジオン)となり、さらに一部艦隊は火星へ向かい、火星独立ジオン軍(いわゆるジオンマーズ)の基礎勢力を構成したとされる。
総じて、突撃機動軍はジオン軍内でも極めて特異な役割と高度な専門性を持つ部隊であり、その戦力・人材・研究領域は、戦後の宇宙世紀史に影響を残すこととなった。
2-5. 地球方面軍
地球方面軍は、南極条約締結によって戦争が終結しなかった状況下で、ジオン公国が地球制圧を目的に編成した大規模戦力である。別名「地球攻撃軍」とも呼称され、形式上はガルマ・ザビが司令官に任じられていた。しかし、その実態は突撃機動軍の下部組織として運用されており、ガルマの指揮権は主として北米方面軍に限定されていたと考えられる。
地球方面軍には、北米に加えてアフリカ、ヨーロッパなど各地域の方面軍が編成され、さらに潜水艦隊を中心とする海軍戦力も含まれていた。これらを総合すると、地球方面軍はジオン軍の地上戦力の大半を担う巨大な軍集団であった。オデッサ作戦時には、各方面から計約98万人の兵力が集結したとされ、この規模を含めれば総兵力は優に100万人を超えていたと推定される。
一年戦争中期には地球全土の約半分を占領し、連邦軍を大きく圧迫する局面も存在した。しかし、連邦軍がMS量産体制の確立に成功すると戦力差は急速に縮まり、オデッサ作戦を契機としてジオン側は徐々に劣勢へと追い込まれた。最終的には多くの部隊が敗走し、地球方面軍は事実上の瓦解を迎えることになる。
戦後、宇宙への撤退に失敗した残存勢力のうち、特にアフリカ方面軍にはオーストラリア方面軍の生き残りが合流し、アフリカ大陸は地球上における最大規模のジオン残党軍の潜伏地となった。これは後のデラーズ・フリート、アクシズ残党、さらにはハマーン政権前後のネオ・ジオンなど、多くの勢力に影響を与えるている。
2-6. 技術本部
技術本部は、ジオン公国軍総司令部の直属機関として設置された独立組織であり、アルベルト・シャハト技術少将の指揮下に置かれていた。同本部には複数の技術試験部隊が編成され、最新兵器の実験・評価を専門的に担う体制が整えられていた。
技術本部には、総帥府や各軍から多様な専門人材が“出向”という形で集約され、機械工学・兵器設計・整備技術・戦術評価など、幅広い分野の知見が投入されていた。任務内容は、軍が独自に開発した兵器の試験運用から、軍需企業が持ち込んだ新装備の評価試験、実戦データ収集まで多岐にわたっている。
本来、技術本部に所属する部隊は研究およびテスト任務を主目的としていたが、一年戦争末期のア・バオア・クー決戦が迫る中、戦力不足を補うために試験部隊がそのまま実働戦力として前線へ投入される事例が発生した。これは、戦局の逼迫が研究部門にまで直接的な動員を強いた象徴的な事例といえる。
総じて技術本部は、ジオン公国軍における兵器開発の中心的機関であると同時に、戦局に応じて研究部門も戦力化されるほどの緊迫した軍事体制を反映した組織であった。
3. 主要拠点
3-1. サイド3
サイド3はジオン公国の本国として機能するコロニー群であり、政治・軍事両面の中枢を担う地域である。総帥府や軍総司令部をはじめとする主要行政・軍事機関が集中しており、本国防衛のために各軍に匹敵する規模の常備戦力が配置されていた点が特徴的である。
また、サイド3は政治的緊張や派閥対立の舞台となることも多く、一年戦争末期にはアンリ・シュレッサー少将率いる首都防衛大隊がクーデターを起こすなど、政情不安が顕在化した例も確認される。こうした事態は、戦争による疲弊とザビ家支配体制の動揺が軍内部にまで影響を及ぼしていたことを示唆している。
3-2. ア・バオア・クー
ア・バオア・クーは、ジオン本国防衛ラインを構成する三大要塞の一つであり、その中でもジオン公国に最も近い位置に存在する戦略中枢拠点であった。一年戦争末期には、公国軍総帥ギレン・ザビの直接指揮下に置かれ、最終防衛陣地としての位置づけが与えられている。
内部には大規模な工廠区画が設置されており、特に戦争後半期には、宇宙における兵器生産・整備・補給の主要拠点として機能した。MSや艦艇の再整備能力を備えていた点は、継戦能力の維持に大きく寄与したと考えられる。
ア・バオア・クーは、政治中枢であるサイド3と前線防衛ラインの間に位置する防衛拠点としてだけでなく、軍事生産拠点としても重要な役割を果たし、ジオン軍の最終局面を象徴する要塞として歴史に刻まれることとなった。
3-3. 宇宙要塞ソロモン
宇宙要塞ソロモンは、ア・バオア・クー、グラナダと並びジオン本国防衛ラインを構成する三大戦略拠点の一つであり、ドズル・ザビ中将率いる宇宙攻撃軍の本拠地として運用された。軍事的には、ソロモンはジオン軍が制宙権を維持するための前方展開拠点であり、戦略的警戒線を形成すると同時に、地球連邦軍および宇宙コロニー内部勢力への牽制にも機能した。
同要塞は、艦隊運用、補給、中距離防衛戦の指揮統制を可能とする設備を備えており、ジオン軍の宇宙作戦全般における指令・迎撃・展開の中核拠点であった。その戦略的位置付けから、宇宙要塞ソロモンは一年戦争中盤までのジオン軍戦略体系を支えた中心的拠点と言える。
3-4. 月面都市グラナダ
月面都市グラナダは、ア・バオア・クーおよびソロモンと並び、ジオン本国防衛ラインを形成する三大戦略拠点の一つである。キシリア・ザビ少将が率いる突撃機動軍の本拠地として運用され、その軍事的重要性は一年戦争を通じて極めて高かった。
グラナダはジオン公国軍による月面都市圏の実質的な支配拠点として機能し、軍需生産、補給、整備、情報統制の複合的役割を担っていた。また、地球方面への部隊展開や宇宙戦域からの支援を行う際の中継基地としての機能も重要であり、地球降下作戦や後方補給線の維持に大きな影響を与えている。
こうした戦略的位置付けにより、グラナダは軍政・兵站・作戦の三領域を統合する拠点として、ジオン軍の宇宙および地上戦略を支えた要衝であった。
3-5. 小惑星基地アクシズ
アクシズは、アステロイドベルトに所在するジオン公国の資源管理拠点であり、希少鉱物採掘の中心地として機能した。さらに、木星ヘリウム船団の停泊地でもあったことから、戦略資源調達および宇宙航路の中継地点として重要な位置づけを担っていた。
基地は、要塞化が施された小惑星本体である「アクシズ」と、その周囲に建設された居住および行政施設群である「モウサ」から構成されている。基地全体の統括はジオン高官マハラジャ・カーンが行い、軍事拠点であると同時に自治的要素を持つ閉鎖社会として運営されていた点が特徴的である。
一年戦争終結後、アクシズは地球圏から撤退したジオン残党勢力の受け皿となり、後にマハラジャ・カーンの次女ハマーン・カーンの指揮下で政治・軍事両面の再編が進められた。これにより、アクシズは単なる後方資源拠点から戦後の新たなジオン勢力の中心拠点へと変貌し、後のネオ・ジオンの形成へと繋がる重要な基盤となった。
3-6. オデッサ
オデッサは、ヨーロッパに位置するジオン公国軍最大級の地上拠点であり、戦略上極めて重要な地域であった。同地は豊富な資源地帯の中心に位置し、採掘・精製された資源は地球方面軍および宇宙拠点へ供給されていたことから、地上戦力の兵站中枢として機能していた。
U.C.0079年11月、地球連邦軍は同地域を攻略対象とした大規模掃討作戦――オデッサ作戦を実行し、これによりジオン軍は決定的な打撃を受ける。作戦の結果、オデッサは連邦軍に奪還され、地球方面におけるジオン軍の補給能力は大幅に低下した。この敗北は、地上戦線の崩壊と戦局の逆転を象徴する転換点として位置づけられている。
3-7. キャリフォルニアベース
キャリフォルニアベースは、北アメリカに位置するジオン公国軍最大規模の地上軍事拠点であり、地球侵攻作戦の中心として機能した。周辺には工廠やドックが建設され、MS・航空機・艦艇の生産および整備能力を備えていたことから、兵站拠点としても極めて重要であった。
ジャブロー攻略作戦に投入された部隊の多くは、この基地から発進しており、同作戦における兵力投射の基盤を担った。しかし、ジャブロー攻略の失敗により投入戦力の多くを喪失したことで、キャリフォルニアベースの防衛力は弱体化していく。
その後、U.C.0079年12月に連邦軍が実施した奪還作戦により、ジオン軍は基地を維持することができず、キャリフォルニアベースは連邦側の手に戻ることとなった。この失陥は、ジオン軍地上戦力の崩壊過程における重要な転換点として位置づけられる。
3-8. ニューヤーク
ニューヤークは、ジオン軍北米方面軍の司令部が設置された都市であり、地球方面軍内における地域統制拠点として機能した。司令官にはガルマ・ザビ少佐が就任し、同地域の軍事行動および行政的支配を統括していた。
同地は政治的象徴性と戦略的価値の双方を兼ね備えており、北米制圧作戦の中心として重要な役割を果たした。しかし、その拠点性の高さゆえ、連邦軍との戦闘および戦況悪化の影響を受けやすい地域でもあり、ガルマ戦死後は指揮系統の混乱と共にジオン軍の掌握力が急速に低下していくこととなった。
4. 軍服とパーソナルカラー
ジオン公国軍では、一定の戦果や名誉を持つ者に対し、軍服の意匠変更やパーソナルカラーの使用が許可されていた。これは、個人の識別性向上のみならず、士気高揚とプロパガンダ効果を意図した制度であり、エースパイロットや指揮官の活躍と異名は、宣伝放送や報道媒体を通じて地球圏全域に広く示されていた。
基本的な制服である第二種戦闘服は、兵科を問わない標準装備として採用され、下士官・士官用モデルには襟部に階級を示す紋様が施されていた。一方で、佐官級以上の軍服では、実務上支障のない範囲で個人の好みによる装飾や形状変更が許可されており、指揮官階級の軍服は機能的装備であると同時に、権威性を示す象徴的アイテムとしての側面を持っていた。
また、モビルスーツパイロットが着用するノーマルスーツはM-73型を標準とするが、軍服と同様、戦果を挙げたパイロットの間では独自の配色や仕様変更が施される例も散見される。これらのカスタマイズは運用面の最適化というより、戦場における個人ブランド化としての性格が強く、ジオン公国軍独自の文化・価値観を象徴する。
5. 戦後の系譜:ジオン残党からネオ・ジオンへ
一年戦争の終結に伴い、ザビ家は指導体制を喪失し、ジオン公国は共和国制へ移行することで政治的存続を図った。しかし、それはジオン軍という武装勢力の完全な終焉を意味するものではなかった。停戦協定に従い表向きの軍事組織は解体されたものの、統制の及ばなかった部隊や帰還不能となった将兵、そして思想的帰属意識を保った兵士たちは、各地で独立的武装勢力として存続し続けた。
こうした残存勢力の中心となったのが、小惑星基地アクシズである。戦後、旧ジオン軍の将兵や技術者がアクシズへ集結し、ジオン思想の継承と軍備の再建が進められた。ここで形成された勢力は、後にハマーン・カーンを中心とするネオ・ジオンへと発展し、宇宙世紀後期の連邦政府に対し再び大きな軍事的脅威となる。
また戦後のジオン残党勢力は単一ではなく、複数の系統に枝分かれした点が特筆される。アクシズ系統とは別に、一年戦争終結直後にはエギーユ・デラーズらが率いたデラーズ・フリートが武装蜂起し、また火星へ逃れた部隊は火星独立ジオン軍(通称ジオンマーズ)として独自の武装国家を形成している。さらに、ハマーン体制崩壊後にはシャア・アズナブルが指揮する第二次ネオ・ジオン戦争が勃発し、ジオン思想は再び歴史の表舞台へと現れることとなった。
総じてジオン軍は、国家としてのジオン公国が崩壊した後も思想・軍事技術・人的系譜として存続し、宇宙世紀の政治・軍事均衡に長期的影響を与え続けた存在であったといえる。
6. 参考文献
- 『Wikipedia – ジオン公国』
- 『機動戦士ガンダム』 ©創通・サンライズ
- 『MS IGLOO -1年戦争秘録-』 ©創通・サンライズ
- 『機動戦士ガンダム MS IGLOO Mission Complete』 竹書房
7. 関連製品
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