ジン(GINN)は、『機動戦士ガンダムSEED』に登場するプラントの軍事組織「ザフト」が初期に量産した主力モビルスーツ(MS)である。本機の投入によって、ザフトは地球連合軍が運用していたモビルアーマー(MA)や宇宙艦艇に対し、機動性・火力・汎用性のいずれにおいても圧倒的な戦力優位を確立した。ジンの登場は、C.E.(Cosmic Era)世界における戦闘様式を根本から変革し、モビルスーツ戦の基盤を形成した機体として位置付けられる。

画像引用元:ROBOT魂 <SIDE MS> ZGMF-1017 ジン ver. A.N.I.M.E ©バンダイ
1. 諸元
型式番号:ZGMF-1017
全高:21.43m
重量:78.5t
動力源:燃料電池
武装:MA-3A 重斬刀、MMI-M8A3 76mm重突撃銃、M66キャニス 短距離誘導弾発射筒、M68パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒、M69バルルス改 特火重粒子砲、M68キャッテゥス 500mm無反動砲
2. 開発経緯
プラントと地球連合(旧・プラント理事国)との緊張関係が高まり、プラント内部で独立志向が強まったC.E.63年、ザフトは自衛力強化を目的としてモビルスーツ(MS)の開発計画を始動させた。これが後にコズミック・イラ世界の戦争構造を根底から変える兵器体系の端緒となる。
C.E.65年、世界初のモビルスーツとなる試作1号機がロールアウトし、同年中には実用量産機の前段階に位置づけられるYMF-01B プロトジンが完成した。その後、プラントのマイウス市の一部を極秘裏に改造して設けられたMS生産施設において正式量産機の開発が継続され、設計の洗練と量産工程の確立が進められた。
C.E.69年、ついに主力量産機 ZGMF-1017 ジンの存在が公表される。本機はプラントの技術行政機関であるハイネライン局(Highline Bureau)によって開発され、政治結社であるザフト—のちに事実上の国軍として機能—の主力兵器として本格的に配備された。
ジンの登場により、ザフトは地球連合に対して質的優位を獲得し、後の第一次連合・プラント大戦(いわゆる「ブレイク・ザ・ワールド」以前の戦争)の戦術様式の形成に決定的な影響を与えることとなった。
3. 開発コンセプト
本機の開発思想の源流として指摘されるのは、木星探査船「ツィオルコフスキー」に搭載された、外骨格・補助動力装備型宇宙服である。これは、不整地での作業を可能にする二脚式の下肢ユニットと、運搬作業を前提としたアームを備えた「パワーローダー」へと発展し、後のモビルスーツ技術のベースを形成したとされる。
このパワーローダーは、人間の動作を忠実に模倣する機構体系を持ち、神経接合(ニューロ・リンク)による操作系統、機体各部に分散配置されたモーターを同期させる電力駆動方式など、後のMSに不可欠となる技術的基盤を備えていた。特に「人型構造を前提とした多目的作業・戦闘機能」は、兵装運用の多様性を支える重要な設計思想として継承され、ジンを含むザフト系MSの直系的特徴となった。
また、人的資源に乏しいプラントにおいて、戦力のサバイバリティ(生残性)確保は重要な課題であった。このため、ジンは当初から一人乗りの戦闘機動兵器として設計され、限定されたパイロット数で高い戦果を挙げることが企図されている。
想定敵は、当時地球連合軍が主力としていたモビルアーマー(MA)部隊であり、特に主力機メビウスを仮想敵機とした性能設定が行われた。具体的には、戦力比で 1機のジンがメビウス3〜5機を相手取る ことが可能であることが開発指標として掲げられており、MSという新兵器体系の優位性を証明する明確な性能要求が与えられていた。
4. 機体性能
4.-1 コーディネーターの優位性
ジンの操縦系統は、高度な反射神経・空間認識力・状況判断能力を前提として設計されており、制御ソフトウェアにはコーディネーターの神経接合(ニューロ・リンク)を基準としたM.O.S.(Mobile Operating System)が採用されていた。このM.O.S.は、操縦入力と機体挙動の同期を極めて高い精度で行う一方、操作負荷が大きく、ナチュラル(自然出生者)では実用的な運用が困難とされる。
その結果として、ジンは事実上コーディネーター専用機となり、開戦初期においてザフトは以下の二つの軍事的優位を確保することになった。
- ナチュラル陣営へのMS技術の拡散を抑止できたこと
ジンを鹵獲した地球連合軍であっても、パイロット適性の不足により即時運用が不可能であり、技術逆解析にも時間を要した。 - MS戦における圧倒的優位性の確立
コーディネーターの優れた身体能力とM.O.S.が高いシナジーを発揮し、従来のMAとは比較にならない機動力・戦術柔軟性を実現した。
これにより、C.E.70年の開戦直後、ザフトはMSの実戦投入と同時に連合のMA戦力を一方的に圧倒し、短期間で宇宙戦域における主導権を掌握することに成功した。
4-2. 機体構造と戦闘力
本機の頭部にはトサカ状の複合センサーブロックが設置されており、その内部には複数種のレーダーおよび光学・電磁センサー群が集約されている。メインカメラには可動式モノアイが採用され、索敵・照準の双方に柔軟な追従性能を確保していた。さらに、LLLTV(低光量テレビ)システムが標準搭載されているため、可視光投光器を使用することなく夜間・低照度域における視界を確保でき、パイロットは戦場状況をリアルタイムで高精度に把握することが可能であった。また、両肩部には補助センサーが設けられ、広角・広域の情報取得能力を補完している。
機体構造については、骨格的な支持機構を備えているものの、パワーローダー系装備から発展した設計思想を色濃く残しており、後世の本格的なフレーム構造とは異なる簡易的な構成であったと推察される。各関節は損傷時に切り離しが可能な設計となっており、戦闘中のダメージコントロールを重視した小規模機の特徴が反映されている。さらに、サイドスカートや脚部には複数のハードポイントが設置され、追加装備の搭載により任務形態に応じた武装・装備のカスタマイズが可能であった。
推進系では、バックパックのウイングバインダーに主推進器が配置され、宇宙空間では高い姿勢制御能力を、地上では跳躍・短距離加速を含む優れた機動性を発揮するよう調整されている。これにより、本機は単一プラットフォームで複数環境に適応できる高い運用柔軟性を獲得していた。
総合的には、装甲防御・火力・機動性の三要素を高水準で両立させた全領域型の戦術機として設計されており、各戦局において迅速な即応を可能とする汎用性を備えていた。連合軍の主力MBTが装備するリニアガンに耐えうる防御力を有するとされる点は、当時の既存兵器体系に対して圧倒的な優位性を示すものであり、従来の対MS戦力を容易に凌駕する攻撃能力とあわせ、戦場のパラダイムを一変させたと評価されている。
4-3. 脆弱性
本機のOSはコーディネーターの高度な認知処理を前提とした構造を有しており、ナチュラルには運用困難な取扱いの難しいシステムであった。一方で、機体そのものの構造要素には既存の民生技術および世界標準規格の部品が多く流用されていたと推察される。そのため、OSレベルでは秘匿性が高い一方、ハードウェア面では構造解析やリバースエンジニアリングの難度が比較的低く、外部勢力による模倣が技術的には可能であった。
とりわけ、独自に高度な工学基盤を築いていたオーブ首長国は、本機の構造的特徴を短期間で解析し、ほぼ同一仕様の機体を製造することに成功しているとされる。これは、オーブが当時から優れた素材工学・機体設計技術・統合生産システムを有していたことに加え、本機の基本構造が汎用技術の延長線上にあったため、複製において大幅な技術的ギャップを生じなかった結果だと考えられる。
総じて、本機の脆弱性はOSと機体構造の技術レイヤーの差異によって生じたものであり、「運用は秘匿性が高いが、構造は模倣が容易」という特異な状況を招いた点に特徴がある。
5. 武装
5-1. MA-M3 重斬刀
本機に採用された MA–M3 重斬刀は、ローラシア級戦艦の外装技術を転用した高硬度素材を刀身に用いた実体剣である。プラントの兵器メーカーであるマティウス・アーセナリー社による精密な分子加工技術によって成形され、その切断性能は同時代の実体兵器の中でも突出していた。とりわけ、非PS(フェイズシフト)装甲であれば、多くの装甲材を容易に切断しうるだけの威力を発揮したとされる。
一方で、刀身には耐ビームコーティングが施されておらず、ビームサーベルなどの高エネルギー兵装との交戦時には分が悪いという明確な限界も存在する。ただし、本兵装の運用経験や実戦でのデータは、後にストライクガンダムのアーマーシュナイダーや、ソードストライクが装備する対艦刀などの近接武器開発に影響を与えたと指摘されることもある。これは、実体剣の取り回し・質量分布・衝撃吸収など、運用上の優位が設計に活かされた可能性を示唆する。
未使用時には、重斬刀は腰部左側のハードポイントにマウントされる方式を採用しており、抜刀の迅速性と安全な携行性を両立させていた。これにより、突発的な接近戦においても即応できる、近接重装備としての性格を強く有していたと考えられる。
5-2. MMI-M8A3 76mm重突撃機銃
MMI-M8A3 重突撃機銃は、本機に標準装備された76mm口径のアサルトライフルであり、ブルパップ方式を採用することで全長を抑えつつ高い火力指数を確保している。使用される弾薬は高初速の徹甲弾で、非PS装甲や軽装甲目標に対して有効な貫徹力を発揮する。射撃モードは精密射撃を想定したセミオートと、制圧射撃・中距離戦闘を想定したフルオートに切り替え可能であり、接近戦から中距離射撃まで柔軟に対応できる汎用火器として位置づけられる。
本銃はプラントの兵器メーカーであるマイウス・ミリタリー・インダストリー社によって製造されており、本機と同様にマイウス市の技術基盤を前提として開発された。設計思想としては、軽量化された携行火器ではなく、“モビルスーツ用突撃銃”としての質量と反動制御を前提とした堅牢な構造を有しており、内部の耐圧・耐熱設計には高強度素材が多用されていると推察される。
兵装の携行方式としては、未使用時には腰部後面のハードポイントにマウントされる仕様となっており、予備弾倉も腰部側面に装着可能である。これにより、射撃継続能力と携行性の両立が図られ、任務持続時間および継戦能力の向上に寄与している。
5-3. M66キャニス 短距離誘導弾発射筒
M66キャニスは、いわゆる「D(DESTRUC-TION)装備」と呼ばれる強攻戦仕様に分類される短距離誘導弾発射筒であり、要塞・拠点攻略を目的とした高火力兵装として設計されている。本装備は大小のミサイルを各2発ずつ搭載した発射ユニットを片手で把持する構造を採用しており、多くの場合、両腕に一基ずつ装備する二丁運用が想定されていたと考えられる。
M66の誘導弾は、遮蔽物や構造物を伴う近距離・中距離域での破壊力を重視した設計と推察され、従来の携行型ミサイル兵装と比較して高い即応性と連射性を兼ね備えている。これにより、対拠点戦闘・制圧射撃・強襲作戦において短時間で大火力を叩き込むことが可能となる点が特徴である。
また、「Canis」という名称はラテン語で「犬」を意味し、同系列兵装に動物名を付す命名規則のがあることから、兵器の特性を象徴化し、戦術用途をイメージ化する軍需メーカー側の慣習的な手法と考えられる。
5-4. M68パルデュス 3連装短距離誘導弾発射筒
M68パルデュスは、本機の脚部外側に設けられた円形ハードポイントに装着される3連装の短距離誘導弾発射筒であり、いわゆる「D(DESTRUC-TION)装備」に分類される強攻戦用兵装の一つである。脚部に搭載することで機体バランスへの影響を抑えつつ、歩行・跳躍動作と両立したまま高い瞬間火力を発揮できる点が特徴とされる。
誘導性については、本機に搭載されたレーダーおよび火器管制システムと連動することで、一定範囲内での簡易誘導が可能であったと推察される。これにより、乱戦や遮蔽物の多い市街地・拠点戦で有効な「半誘導型ミサイルポッド」として運用でき、従来の固定式ミサイルポッドよりも高い命中安定性が期待された。
開発段階では、手持ち携行用アタッチメントも併せて試験的に設計されていたが、実際には両腕の自由度を大きく損なう点が問題視された。結果として、本兵装を手持ち携行する戦術的利点は限定的であり、記録上、多くの部隊が脚部または腰部へのマウント方式を選択して運用していたとされる。
なお、「Pardus」という名称はラテン語で「ヒョウ」を意味し、同系列装備に動物名を冠する命名規則の一環と考えられる。素早い打撃力や瞬発的な攻撃性を象徴した名称である可能性も指摘される。
5-5. M69 バルスス改 特火重粒子砲
M69 バルスス改 特火重粒子砲は、ザフトが初期に開発したビーム火器の一種であり、主として対要塞・対構造物攻撃を目的とした重火力装備に分類される。本装備は機体本体から直接エネルギー供給を受けるのではなく、銃尾部に装着された専用カートリッジからエネルギーを注入する方式を採用している。
しかし、長大な砲身に比して出力は限定的であり、対ビームコーティングを施したシールドや装甲に対しては防御が成立しうる性能であったとされる。これは、ビーム兵器の小型化および高出力化がまだ十分に確立していなかった時代的背景を反映している。小型化が難航した結果、砲身・エネルギー機構ともに大型化しており、運用時には両手で保持し肩越しに抱えて発射する必要があったため、機動戦闘下での取り回しは良好とは言い難い。
発射可能回数も三発前後と限られていたが、それでもビーム兵器特有の高弾速と熱エネルギーによる瞬時貫徹は、特定の状況下で十分な効果を発揮したと評価される。特に、要塞戦・陣地突破・限定的な長距離射撃など、機動性より火力集中が重視される局面においては、本装備は依然として有効な重火力兵装として位置づけられた。
5-6. M68 キャットゥス 500㎜無反動砲
M68 キャットゥス 500mm無反動砲は、本機の実戦配備に合わせて開発された大口径の対艦戦用バズーカであり、特に対艦艇・大型構造物に対する一点突破火力を重視した兵装に分類される。本装備は無反動砲方式を採用しており、モビルスーツが運用する際の反動制御を大幅に軽減し、安定した射撃を可能としている。
弾頭は本体上部に配置された着脱式ボックスマガジンから供給される構造となっており、これにより任務状況に応じた弾種の切り替えが容易であった。対艦徹甲弾・炸裂弾に加え、水中での運用を想定した魚雷弾頭を発射できる点は特筆すべき特徴であり、水上・水中双方での戦闘に対応可能な高い汎用性を持つ兵装として評価されていた。
C.E.73年以降はビーム兵器の高出力化と普及が急速に進んだものの、キャットゥスは依然として多用途性と弾種の柔軟性に優れ、特に水中戦・対艦戦・ビームの減衰が生じやすい環境で有効であったと考えられる。このため、ザフトの制式採用機では引き続き本装備が使用される例が見られ、技術体系の変遷期においても一定の実戦価値を保持し続けた。
5-7. 115mmレールガン シヴァ
115mmレールガン「シヴァ」は、戦争後期のモビルスーツ用携行火器として開発された電磁加速式兵装であり、実体弾火器の延長線上に位置しつつ、より高初速・高貫徹力の獲得を目指した試験的装備である。電磁投射機構を採用することで、従来の装薬式火砲では困難であった高弾速の実現が企図されており、特に対装甲戦闘において有効な火力体系として期待されていた。
C.E.71年1月時点で、一部部隊に試験的に搬入されていたことが記録されているが、当時ザフトが並行して進めていたビームライフルの実用化に目途が立ったことで、シヴァは制式採用には至らなかった。ビーム火器の高いエネルギー効率・命中精度・環境適応性(特に水中や低重力環境での減衰の少なさ)が将来的な主兵装として優位と判断されたためである。
とはいえ、シヴァの開発過程は、電磁加速兵器に関する基礎データや材料応力解析など、後続の火器技術に一定の知見を残した可能性がある。レールガンとしては完成度には課題が残ったものの、ビーム兵器へ移行する直前における過渡期の兵装技術を象徴する装備のひとつであったと位置づけられる。
5-8. スナイパーライフル
スナイパーライフルは、長距離狙撃を目的として設計された実体弾式火器であり、細身かつ長大な砲身と、高倍率照準システムを備える点が特徴である。本装備は、本体側に搭載された高精度センサーおよび火器管制装置と連動することで、極めて高い射撃安定性と命中精度を発揮するよう調整されていた。
もっとも、本兵装は反動制御と命中精度を優先した結果、弾頭質量および装薬量が抑制されており、総合的な威力は限定的であった。非戦闘用機材や軽装甲車両に対しても十分な損害を与えられない場合があり、対モビルスーツ戦闘における主兵装としては戦術的価値が低いと評価された。これは、長距離狙撃任務を想定した“特殊用途火器”としての性格が強く、高出力ビーム兵器が普及し始めたCE71以降の戦場環境では、相対的に有効性を失ったことも一因である。
こうした理由から、スナイパーライフルを積極的に装備する部隊は少なく、実戦運用例も限定的であったと推察される。ただし、限定的な任務においては、高精度の観測・牽制射撃・特定部位破壊などの特殊用途として一定の価値を持った可能性もある。
6. 劇中での活躍
6-1. 大戦初期の圧倒的優位性
第一次連合・プラント大戦の開戦初期において、本機が戦局に与えた影響は極めて大きい。高い汎用性と優れた機動性、そして従来のモビルアーマー(MA)では達成し得なかった「多領域作戦への即応性」によって、物量で優位に立つはずの地球連合軍に対し、ザフトは戦力差を相殺するだけの戦術的優位を確保することに成功した。特に、当時の連合軍の主力MAはMSとの一対一の機動戦闘に対応しきれず、本機の投入は戦場構造そのものを変革したと評価されている。
ただし、『機動戦士ガンダムSEED』本編の時点では、開戦から約一年が経過しており、本機を取り巻く技術環境は大きく変化していた。ザフト内部では第二期MS群としてシグーやディンなど、より専門性・高性能を志向した機体が開発されており、本機はそのまま主力機の座に留まることが難しくなりつつあった。
このため、本機には近代化改修や追加オプションの導入といった延命策が施されたとされるが、技術的潮流の変化や生産ラインの再編も相まって、それら改修型が本格的に量産される段階に至ることはなかったと推察される。つまり、本機は大戦初期においてこそ圧倒的な戦術価値を発揮したものの、兵器体系が急速に高度化するCE71〜72年の技術革新の波には、次第に取り残されていったという位置づけになる。
6-2. 失われる優位性と旧式化
大戦中期に至ると、地球連合軍はフェイズシフト(PS)装甲を採用したG兵器群を実戦投入し、従来の実体弾による攻撃を大幅に無効化し得る新たな防御体系を確立した。PS装甲は、開戦初期において本機が保持していた「実体弾兵器を主軸とする優位性」を根本から揺さぶるものであり、戦場の要求性能そのものを転換させる技術的ブレイクスルーとなった。
さらに、大戦後期にはストライクダガーが量産段階へ移行し、連合軍は標準兵装としてビームライフルを搭載するMSを大規模に投入する態勢を整えた。この大量配備は、戦力比においてザフトを圧迫するだけでなく、ビーム兵器の高い貫徹力・命中精度により、既存MSの生存性と戦術価値を根本から脅かす結果をもたらした。こうして、戦争初期に確立されたザフト側のミリタリーバランスは急速に逆転することとなる。
この状況に対抗するため、ザフトはビーム兵器の運用を前提とした第二世代機――ゲイツの開発を推進し、主力量産機としての位置づけを本格的に移行させていった。結果として、本機は兵器体系の急速なビーム化の波に対応しきれず、技術的にも戦術的にも旧式化が進行したと考えられる。初期大戦において圧倒的な効果を発揮した機体であったが、兵装体系の革新と量産化競争の加速により、その優位性はおよそ一年足らずで失われていったのである。
6-3. 大戦以降の扱い
第一次連合・プラント大戦終結後、本機は技術的には既に旧式機の範疇に入っていたが、その数の多さゆえにさまざまな形で再流通したとされる。記録上、鹵獲品や密輸ルートを通じてテロ組織・レジスタンス勢力へ流出した事例が確認されており、これは大量生産機ゆえの管理難度を反映した現象と考えられる。
一方、正規軍においても、大戦での甚大な損耗とユニウス条約によるMS保有数の厳格な制限が重なり、次世代主力量産機への更新が遅れた部隊が少なくなかった。こうした部隊では、戦力維持の観点から本機が引き続き運用されており、性能面での陳腐化が進む中でも一定の役割を担い続けていた。
C.E.73年に勃発した第二次連合・プラント大戦においても、本機の投入例がわずかではあるが確認されている。これは、後継機の整備・補給体系が完全には行き渡らなかった部隊や、辺境配置部隊が旧式機を延命的に運用していた事情を反映したものと推察される。
さらに、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の舞台となるC.E.75年では、本機は完全に旧式化した“骨董品”として扱われながらも、経済特区の治安維持や低脅威圏での警備任務に投入されていた描写が示されている。これは、性能面では既に前線任務に耐えないものの、維持コストの低さと母数の多さゆえに、後方任務に限定して再活用されていたことを示唆する。
総じて、本機はC.E.67年からC.E.71年初頭にかけて大量生産された主力機であり、その圧倒的な製造数と堅牢な構造ゆえに、技術的世代交代を経てもC.E.75年まで稼働例が確認される長寿命機体となった。これは、兵器体系の急速な高度化が進むCE世界においては例外的な“ロングセラー”のMSであったと評価できる。
7. 参考文献
- 『機動戦士ガンダムSEED』 ©創通・サンライズ
- 『Wikipedia – ジン(ガンダムシリーズ)』
- 『機動戦士ガンダムSEED 3 平和の国』 角川書店
- 『機動戦士ガンダムSEED コズミック・イラ メカニック&ワールド』双葉社
- 『機動戦士ガンダムSEED DESTINY MSエンサイクロペディア』一迅社
- 『データコレクション17 機動戦士ガンダムSEED 上巻』メディアワークス
- 『HG モビルジン 2003 組立説明書』バンダイ
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