はじめに:理想が「権力の道具」へ変わる瞬間
『機動戦士ガンダム』における思想的バックボーンの一つである「ジオニズム」は、もともとジオン・ズム・ダイクンによって提唱された宇宙移民者(スペースノイド)の自治権拡大と、地球環境保全を目的とする理念であった。しかし、彼の死後、ジオン共和国の政権を掌握したザビ家によってその思想は大きく変質する。
本記事では、ザビ家がいかにしてジオニズムを自身の権力の正当化装置へと転換し、結果として一年戦争を含む宇宙世紀の抗争を引き起こす土壌を形成したのかを、政治思想史の視点から精緻に分析する。
![]() |
新品価格 |

ジオニズムの原型――ダイクンが託した理想
コントリズムとエレズムの融合思想
ジオン・ズム・ダイクンが構想したジオニズムとは、以下の二つの柱を持つ包括的理念であった。
- コントリズム:スペースノイドによる自治と政治的自決の権利を認める思想
- エレズム:地球環境保全のため、人類が地球から離れて宇宙へ移民するという倫理的指針
この二つの理念は、「人類の進化と共存」という理想のもとに統合されており、従来の地球中心主義に対抗する形で提唱された、人類史の新しいパラダイムであった。
しかし、ダイクンがこの理想を現実に実装する前に急逝(あるいは暗殺)し、政権の空白が生じたことで、その理念は権力闘争の渦中に投げ込まれることになる。
![]() |
新品価格 |

ザビ家の台頭と公国体制の確立
デギン・ソド・ザビの擬似的「継承」
ダイクンの死後、政権を継いだのは副首相だったデギン・ソド・ザビである。彼は一見して穏健派を装い、ダイクンの理想を形式的に尊重する態度を取ったが、すぐにジオン共和国を王政化し、自ら「ジオン公国」の公王に即位する。
ここにおいて、「共和国」という形態は放棄され、ダイクンが夢見た“スペースノイドの自発的自治”は強権的支配構造へと置き換えられた。
デギンは、ダイクンの名前を政権の正統性の根拠としつつも、その理念を内容的には一切継承していない。これは、思想的継承を装った「思想の横領」に他ならない。
ギレン・ザビによるジオニズムの再定義
デギンの長男、ギレン・ザビはジオニズムをさらに変質させる。彼はこの思想を「スペースノイドによる地球在住者の支配」という形で再構成し、実質的に選民思想と優生主義へと転化した。
ギレンのジオニズム解釈:
- 宇宙環境に適応したスペースノイドこそが進化した人類(ニュータイプ)である
- 地球に残る旧人類は退化の象徴であり、支配・管理されるべき存在である
- ザビ家こそがその新秩序の指導者であるべき
この思想の変質によって、ジオニズムはもはや「宇宙に生きるすべての人類の未来像」ではなく、ザビ家を頂点とする体制正当化のイデオロギーとなった。
![]() |
新品価格 |

プロパガンダと暴力装置としてのジオニズム
教育とメディアによる思想統制
ジオン公国では、ジオニズムが国家の正式な教育方針に組み込まれ、学校教育からメディア報道に至るまでその思想が徹底的に刷り込まれた。
- 初等教育における「ダイクン賛美」と「ザビ家による継承」
- テレビ放送や出版物における反地球連邦プロパガンダ
- 軍事演習や式典におけるジオニズムの儀礼化
このような形でジオニズムは宗教的ナショナリズムの性格を強め、「選ばれた国民(スペースノイド)」という幻想を支える柱として機能していく。
一年戦争とジオニズムの暴走
宇宙世紀0079年、ジオン公国は地球連邦に対して宣戦を布告し、「一年戦争」が勃発する。この戦争の大義名分として用いられたのが、まさにザビ家が再定義したジオニズムである。
- スペースノイドによる「正義の解放戦争」
- 地球連邦の圧政からの脱却
- 自然な人類進化の促進(=ニュータイプ化)
だが、実際にはこれは単なる権力と資源の争奪戦であり、戦争そのものが本来のジオニズムとは無縁な暴力の連鎖に過ぎなかった。
このようにして、「理想によって人類を導く思想」は「国家による侵略の正当化論」へと成り果てたのである。
![]() |
新品価格 |

ザビ家によるジオニズム変質の構造的分析
グラムシ的ヘゲモニー論との照応
政治思想家アントニオ・グラムシが提唱した「ヘゲモニー(覇権)」理論によれば、支配階級は暴力による統治だけではなく、文化的・思想的支配を通じて民衆の同意を獲得する。
ザビ家はまさにこの「思想による支配=ヘゲモニー」を実行した。
- ダイクンの名声を用いた正統性の演出
- ジオニズムの選民思想化による帰属意識の創出
- 外敵(連邦)に対する敵意の操作
こうした手法は、ファシズム体制における「民衆の熱狂的支持」と本質的に共通しており、ギレン・ザビの演説や軍事パレードの様式美はその典型である。
イデオロギーとしての危うさ
ジオニズムの変質が示すのは、理想的な思想ほど政治利用されやすいという歴史的な皮肉である。
- 平等の理念が独裁の道具になる(共産主義の変質)
- 国家の団結が排外主義へと転じる(ナショナリズムの暴走)
- 進化論的思想が優生学に変わる(ニュータイプ論の危険性)
ザビ家によって歪められたジオニズムは、まさにこうした例の集大成であり、「理念の暴力化」を象徴するケーススタディといえる。
![]() |
ROBOT魂 <SIDE MS> MA-08 ビグ・ザム ver. A.N.I.M.E. 新品価格 |

終章:ザビ家の死とジオニズムの再評価
ギレンの死とザビ体制の崩壊
一年戦争終盤、ア・バオア・クー攻防戦にてギレン・ザビはキシリア・ザビによって暗殺され、ザビ体制は実質的に崩壊する。この過程で、ジオン公国の内部分裂と指導層の権力争いが露呈し、「ジオニズムの終焉」が劇的に演出される。
宇宙世紀後期におけるジオニズムの再検討
その後、宇宙世紀0096年を描いた『機動戦士ガンダムUC』において、ダイクンの思想は再び評価される。主人公バナージ・リンクスは、「ニュータイプとは他者を理解する力」だと定義し直し、ダイクンが見た未来像の再構築を試みる。
つまり、ザビ家が歪めたジオニズムは、その後の世代によって再び人間主義的な思想として回収される可能性を持っているという物語的展望が示されている。
![]() |
RG 1/144 ガンダムベース限定 ジオング [スペシャルコーティング] プラモデル 新品価格 |

関連記事
アニメ・エンタメ見放題!14日間無料!【DMMプレミアム(DMM TV)】


