
ザイデル・ラッソ(Seidel Rasso)は、『機動新世紀ガンダムX』(1996年)に登場する宇宙革命軍の総統である。スペースコロニー群「クラウド9」を本拠とする宇宙革命軍の最高指導者であり、15年前の第7次宇宙戦争ではすでに総統の座にあって、地球へのコロニー落としを強行した当事者でもある。そして宇宙生活者こそが人類の革新者ニュータイプへ至る選ばれた民だとする「ニュータイプ主義」を掲げ、それを国家の柱に据えた。
ガンダムシリーズには、ニュータイプという言葉を利用した指導者が何人も登場する。だがザイデルほど、その言葉を露骨に、そして徹底して「自分のもの」にしようとした人物はいない。本稿では、ザイデルの経歴とアフター・ウォー世界での立ち位置に始まり、ニュータイプ主義の論理構造、旧約聖書を借りた自己演出、ティファ・アディールとの対面、組織内部の亀裂、鏡像としてのフィクス・ブラッドマン、そして月面での最期までを辿る。そのうえで、ザイデルにとってニュータイプとは実在する「人」ではなく、権力者だけが握る「定義権」だったことを確かめてみたい。
総統の肖像 ― プロフィールと立ち位置
ザイデル・ラッソは、宇宙革命軍の軍事と政治の実権をあわせ持つ独裁者である。本編の舞台となるアフター・ウォー(A.W.)0015年の時点で、彼は少なくとも15年にわたって宇宙側の頂点に立ち続けている。第7次宇宙戦争を指導した人物が、戦後の再建期を経て、次の戦争の指揮まで執る。アフター・ウォーの宇宙は、15年間、一人の人間の思想に支配され続けていたのである。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | ザイデル・ラッソ(Seidel Rasso / Zaidel Rasso) |
| 所属・役職 | 宇宙革命軍 総統 |
| 本拠 | スペースコロニー群「クラウド9」 |
| 年齢 | 55歳(A.W.0015時点、資料による) |
| 声 | 岸野一彦 |
| キャラクターデザイン | 西村誠芳 |
| 旗艦 | ガーベラ |
| 掲げた思想 | ニュータイプ主義(スペースノイド選民思想) |
| 最期 | A.W.0015、第8次宇宙戦争の最終局面で旗艦ごと撃沈され戦死(第39話) |
英語表記は資料によって揺れがあり、英語圏のファンWikiや放送データベースでは「Seidel Rasso」、配信サービスのキャスト表記などでは「Zaidel」「Zaider」といった綴りも見られる。本稿のタイトルでは「Seidel Rasso」を採った。
ザイデルの立ち位置を理解するには、アフター・ウォー世界の勢力配置を押さえておく必要がある。第7次宇宙戦争で旧地球連邦が崩壊したのち、地球では政府再建委員会を母体とする「新地球連邦」が勢力を伸ばしつつあった。その軍を率いるのがフィクス・ブラッドマンである。地上には、モビルスーツを駆って戦争の遺物を漁るバルチャーや、新連邦に抗う独立国家、レジスタンスが入り乱れている。そして宇宙には、15年前に地球を焼いた側、宇宙革命軍が、軍備を再建しながら次の機会をうかがっていた。

この三者の中で、ザイデルは主人公ガロード・ランたちの直接の敵というより、物語全体の「背景にいる独裁者」として存在感を放つ。本人が画面に本格的に姿を現すのは、物語が宇宙へ舞台を移す終盤、第32話以降のことだ。だが、ガロードたちが旅した荒廃した地球そのものが、ザイデルの決断の産物だった。主人公たちが歩いてきた廃墟の風景こそが、この男の最初の「功績」なのである。
「大洪水」を起こした男 ― 第7次宇宙戦争とコロニー落とし
第7次宇宙戦争は、あるスペースコロニーが地球連邦からの独立を宣言したことに端を発する、地球と宇宙の全面戦争である。宇宙革命軍は、ニュータイプ部隊で地球を攻撃する「ライラック作戦」などを試みたが、旧連邦軍はガンダムと呼ばれる新型モビルスーツ群を前線に投入してこれに対抗した。そして戦争の最終局面、宇宙革命軍は切り札を切る。数百基ともいわれるスペースコロニーを、地球へ落としたのである。
このとき旧連邦のニュータイプ兵士ジャミル・ニートは、ガンダムXのサテライトキャノンでコロニーを迎撃した。ところが、その迎撃がかえって宇宙革命軍に作戦を強行させる引き金となり、おびただしい数のコロニーが地球に降り注いだとされる。地球は7年にわたる核の冬に覆われ、旧連邦は崩壊する。生き延びた地球の人口は1億人に満たない規模(約9,800万人とする資料もある)にまで落ち込んだ。その一方で、宇宙革命軍もまた、コロニー落としの後に地球へ侵攻する余力を失っていた。勝者のいない戦争の果てに、世界は「アフター・ウォー(戦後)」という新しい暦を数え始める。

第7次宇宙戦争の全体像については「第7次宇宙戦争 / Seventh Space War」で詳しく扱っている。ここで押さえておきたいのは、ザイデルという人物を語るとき、この戦争が単なる「過去の経歴」ではないという点だ。後述するように、ザイデルはこの破局を、自らの思想を飾る神話として語り直していく。地球を焼いた当事者が、その焼け跡を「選ばれた者が生き残るための洪水」と呼ぶ。 ザイデルの思想の不気味さは、まさにそこにある。

画像引用元:『機動新世紀ガンダムX』 ©バンダイナムコフィルムワークス
「ニュータイプ主義」という国家神話
ザイデルが宇宙革命軍の旗印に掲げたのが「ニュータイプ主義」である。その骨格は、おおむね次のように整理できる。宇宙という環境が人間を変革し、変革された人間、すなわちニュータイプは宇宙から生まれる。ゆえに宇宙に生きるスペースノイドこそが人類の革新を担う選ばれた民であり、地球に留まる「オールドタイプ」を導く資格を持つ。

一見すると、これは人類の進化をめぐる思想のように見える。だが、図3のように論理の連鎖を分解すると、その本当の終着点が見えてくる。「スペースノイドが選民である」という帰結は、さらにもう一段先の結論、「選民を導く総統の権力は正当である」へと接続されている。ニュータイプ主義は、人類の未来を語る思想である以上に、ザイデル一人の権力を正当化するための装置だった。 実際、ザイデルはニュータイプを人の革新と謳いながら、ニュータイプの力そのものにはほとんど関心を示さず、それをコロニーの住民を統治するための象徴、手段としてしか見ていなかったとされる。
そして、この連鎖には致命的な急所がある。出発点が「能力」ではなく「生まれた場所」に置かれていることだ。もし地球で生まれたニュータイプが一人でも公に認められれば、「ニュータイプは宇宙で生まれる」という推論が崩れ、そこから先の帰結はすべて根拠を失う。ザイデルの国家神話は、地球生まれのニュータイプの存在を、決して認めるわけにはいかない構造を持っていたのである。この急所が、のちにティファ・アディールとの対面で露わになる。
コラム|ダイクンの思想はどこで歪んだか ― 宇宙世紀との比較
「宇宙に出た人類が新しい人類へと変わる」という発想は、ガンダムシリーズの原点である宇宙世紀にも登場する。サイド3の独立を唱えた思想家ジオン・ズム・ダイクンは、宇宙に適応した人類の可能性を語り、それがのちにニュータイプという言葉と結びついていった。
ただし、宇宙世紀においてこの思想を国家主義へと変質させたのは、ダイクンの死後に権力を握ったザビ家だった。思想家と、その思想を利用する権力者は別の人物だったのである。ザイデルの場合、この二つの役割が一人の中に同居している。思想を唱えるのも、それを権力の道具として運用するのも、同じザイデルなのだ。宇宙世紀で長い時間をかけて起きた「思想の変質」が、アフター・ウォーでは最初から完成した形で提示されている、と言ってもよい。
『機動新世紀ガンダムX』は、宇宙世紀とは別の世界を舞台にしながら、ニュータイプという概念そのものに真正面から向き合った作品である。宇宙革命軍という組織自体、宇宙世紀のジオン公国を下敷きにした勢力だと指摘されることも多い。ザイデルという人物は、宇宙世紀が描いた「ニュータイプ思想の政治利用」を、一人の独裁者に凝縮した存在として読むことができる。(筆者の解釈。ダイクンについては「ジオン・ズム・ダイクン」「ジオニズム」、ニュータイプ概念全般については「ニュータイプ」を参照されたい)

ノアを名乗る男 ― 方舟・洪水・鳥の政治神学
ザイデルの思想には、もう一つ際立った特徴がある。宗教的な語彙による自己神格化である。第32話、ザイデルが初めて本格的に登場する場面で、彼は旧約聖書『創世記』のノアの物語を語る。洪水を逃れたノアが大地の様子を探るために鳥を放ち、最初の鳥は戻らなかったが、二度目に放った鳩が新しい植物を咥えて戻ってきた。それを見たノアは大地の復活を確信し、方舟を新天地へ向けた、という一節である。
この語りの中で、ザイデルは自らをノアに、宇宙革命軍のコロニー群を方舟に、そして15年前の戦争を大洪水になぞらえている。彼が放った「鳥」とは、地球に潜伏させた諜報員たちであり、彼らがもたらした情報を集約して、ザイデルは再び地球へ向かう時が来たと確信していたのである。

この比喩の構図を、少し丁寧に見ておきたい。『創世記』のノアは、堕落した地上を一掃する神の洪水から、方舟によって生き延びた義人である。そこでは、洪水を起こすのは神であり、ノアは選ばれて救われる側に立つ。ところがザイデルの読み替えでは、洪水を起こしたのはザイデル自身だ。破局を引き起こした当事者が、同時に「選ばれて生き残った義人」の座に座っている。 加害と救済の役割が、一人の人間の中で都合よく入れ替えられているのである。
この語り口は、コロニー落としという史上最悪の決断を、「堕落した地上への裁き」として正当化する効果を持つ。人口の大半を奪った行為が、選民が生き残るための通過儀礼へと塗り替えられる。そして洪水の後、地上に「鳥」を放って再侵攻の時機を探る総統の姿は、政治指導者であると同時に、終末を語る教団の教祖のような狂信性を帯びていた。
コラム|なぜ「総統」なのか ― 称号の政治学
ガンダムシリーズの独裁者たちは、それぞれ異なる称号を名乗っている。宇宙世紀のジオン公国では、ギレン・ザビが「総帥」として軍と政治を率い、父デギン・ソド・ザビが「公王」として君臨した。これに対し、ザイデルの称号は「総統」である。
日本語の「総統」という言葉は、現実の20世紀史において、特定の独裁体制の最高指導者を指す訳語として定着した経緯を持つ。作り手がそこまで意図したかどうかは分からない。だが、選民思想を掲げ、自らを歴史の裁き手に擬し、異論を唱える者を排除する指導者に「総統」の称号が与えられていることは、視聴者に一定のイメージを喚起するには十分だった。公王が「血統」を、総帥が「軍事」を権威の源泉とするなら、ザイデルの「総統」は、思想そのものを権威の源泉とする指導者の称号だったと言えるかもしれない。(称号の含意は筆者の解釈。デギンについては「デギン・ソド・ザビ」を参照)
定義する者 ― ティファ・アディールとの対面
ザイデルの思想が最も鮮明に露わになるのは、地球生まれのニュータイプ、ティファ・アディールとの対面である。ティファは、戦後の地球で確認されている唯一の、自然に生まれたニュータイプとされる少女だった。
第30話、新地球連邦のニュータイプ研究所の所員として潜入していた宇宙革命軍の諜報員ニコラ・ファファスは、研究所が新連邦軍の攻撃を受けた混乱に乗じてティファを連れ出し、宇宙へと向かう。ニコラはティファを示すことで、地球にもニュータイプが存在することをザイデルに認めさせようとしていた。クラウド9に到着したティファは、第32話で総統ザイデルに謁見する。謁見の場でティファが感じ取ったのは、この男の内側にある強い不安だった。
決定的な場面は、第34話の会食の席で訪れる。ザイデルは、ティファに力があることは認めながらも、彼女をニュータイプとは呼べないと告げる。ニュータイプとは宇宙という環境が人間を変革して初めて成立するものであり、地球で生まれた彼女は「突然変異」にすぎない、というのである。ニコラが、これほど人の革新を体現した例はないと反論すると、ザイデルは声を荒らげる。スペースノイドが信じるニュータイプこそが真のニュータイプであり、どれほど力があろうと、我々が認めなければそれはニュータイプではない。そして彼は、こう言い切った。「私こそニュータイプを正しく定義する者なのだ」。

図6のフローを見ると、この論理の奇妙さがよく分かる。判定の分岐点は、能力の有無ではなく「どこで生まれたか」に置かれている。能力を持つことは前提にすぎず、宇宙生まれでなければ、どれほどの力を持っていても「突然変異」に振り分けられる。そして、最終的な判定を下すのは、能力でも出自でもなく、「総統がそれを認めるかどうか」である。ここでニュータイプは、実在する存在から、権力者が授与する称号へと置き換えられている。
ザイデルはさらに、ティファをダリア作戦に同行させ、宇宙革命軍の力を見せつけたうえで自己批判を求めようとする。資料によれば、それを拒んだ場合は命を奪うことも辞さない構えだったという。ニコラは、ニュータイプの力を目の当たりにしながら拒絶されるとは考えておらず、ティファを連れてきたことを深く後悔する。ランスロー・ダーウェルもまた、危険な立場に置かれたティファを周囲から守るようになっていった。
ザイデルがティファを否認しなければならなかった理由は、前節で見た論理の急所にある。地球生まれのティファを真のニュータイプと認めれば、「宇宙に生きる者こそ選ばれた民である」という革命軍の根幹が崩れてしまう。逆に言えば、ザイデルは、目の前の少女が本物であることを理解していたからこそ、彼女を拒まなければならなかったのかもしれない。ティファが感じ取った「不安」とは、自らの神話が一人の少女によって覆されかねないことへの、独裁者の怯えだったとも読める(この点は筆者の解釈である)。
足元から崩れる帝国 ― ランスローとニコラ
ザイデルの独善は、宇宙革命軍の内部にも静かな亀裂を広げていった。その亀裂を体現したのが、二人の部下である。
一人目は、ランスロー・ダーウェルである。第7次宇宙戦争で宇宙革命軍のニュータイプのエースとして戦い、ジャミルと死闘を繰り広げた彼は、戦後の革命軍で英雄として扱われていた。本編の時点では大佐の地位にあり、教導部隊を率いている。だが、コロニー落としの際のジャミルとの相討ちで、ジャミルと同じくニュータイプ能力のほとんどを失っており、ニュータイプ主義のもとで祭り上げられることに疑問と反発を覚えていた。ザイデルにとって、ランスローは「宇宙のニュータイプ」の生きた証拠であり、プロパガンダや人心掌握のための飾り物の英雄だった。第33話、宇宙革命軍がレジスタンス組織サテリコンの殲滅に乗り出したとき、ランスローは攻撃の開始をガロードに知らせて彼を逃がしている。作戦の後、ランスローは英雄として式典で顕彰されるが、その心はすでに総統から離れ始めていた。

二人目は、ティファを宇宙へ連れ出した諜報員ニコラ・ファファスである。ダリア作戦が何の成果も上げられないまま破綻し、宇宙革命軍の体制が疲弊すると、ニコラは新地球連邦との和平をザイデルに進言する。しかし、なおも地球への攻撃を諦めようとしないザイデルは、ニコラを反逆者として処刑した。ニコラの平和を願う遺言は、ランスローへと託された。ザイデルが「鳥」として地球に放った使いが最後に持ち帰ったのは、再侵攻の好機ではなく、神話の虚構を告げる証拠と、平和への遺言だったのである。
ニコラの処刑は、ランスローがザイデルに見切りをつける決定的な要因となった。ザイデルは、自らの神話を守るために、神話を支えるはずだった者たちを次々と手放していった。 英雄は失望して離れ、忠実な諜報員は処刑される。この構図は、のちにザイデルが不意の死を遂げたとき、宇宙革命軍が速やかに和平へと転じる伏線にもなっている。
鏡の中の独裁者 ― フィクス・ブラッドマンとの対称性
『機動新世紀ガンダムX』は、ザイデルに一人の「鏡像」を用意している。新地球連邦軍の総司令官、フィクス・ブラッドマンである。
ザイデルがニュータイプを神格化し、宇宙生活者の優越の看板に掲げたのに対し、ブラッドマンはニュータイプに兵器としての利用価値だけを認め、同時に秩序を乱すものとして恐れた。一方は「崇める」、もう一方は「使う」。方向は正反対に見える。だが、どちらもニュータイプという存在の人格や意思には関心を払わず、自らの権力のための道具として扱った点で、二人は同じ場所に立っていた。

この対称性を劇中ではっきりと示すのが、第35話の場面である。新連邦に捕らえられたティファは、ブラッドマンと対面し、その心の奥に隠された言葉を読み取る。それは「D.O.M.E.」という言葉であり、かつてザイデルの心の中にも隠されていたのと同じ言葉だった。宇宙と地球、正反対の陣営を率いる二人の指導者は、同じ一つの秘密を胸に抱いていたのである。
両者の対称性は、その最期によって完成する。二人を葬ったのは、旧連邦のニュータイプ研究機関で、フラッシュシステムに感応しなかったために「カテゴリーF」(ニュータイプとは似て非なる者)に分類され、ニュータイプを至上とする世界への復讐を誓ってきたフロスト兄弟だった。ニュータイプを「定義する」者と「規格化する」者が、その規格から外された者たちの手で、同時に歴史から消される。 これほど皮肉な因果応報は、シリーズ全体を見渡してもそう多くない。新連邦のニュータイプ観の源流をめぐっては、宇宙世紀の地球連邦を扱った「地球連邦政府は何故ニュータイプを忌避するのか」もあわせて読むと、ニュータイプと権力の関係がより立体的に見えてくる。
月へ ― ダリア作戦の挫折から第8次宇宙戦争へ
A.W.0015年、軍備の再建を終えた宇宙革命軍は、ふたたび地球への攻勢に出る。その切り札が「ダリア作戦」だった。巨大兵器コロニーレーザーで地球そのものを撃ち、圧倒的な優位を築いたうえで地球に降伏を迫るという作戦である。資料によれば、もともとは前大戦で先制攻撃として計画されていたもので、ザイデルは15年前の敗因を「国力の差を覆す短期決戦ができなかったこと」に見ていたという。第34話、宇宙革命軍は新地球連邦に正式に宣戦を布告し、ザイデルはランスロー、そしてティファを伴ってコロニーレーザーへ向かう。
しかし、作戦は発射の直前に潰える。壊滅したサテリコンの任務を引き継いだガロードとパーラ・シスは、ガンダムダブルエックスのサテライトキャノンでコロニーレーザーを狙い、破壊をちらつかせてティファの返還を迫った。ザイデルはティファを返さざるを得ず、そのうえでコロニーレーザーも破壊される。総力を注いだ作戦は、屈辱的な形で崩れ去った。15年前に地球を焼いた男は、今度はたった一人の少年によって、二度目の「野望」を阻まれたことになる。

画像引用元:『機動新世紀ガンダムX』 ©バンダイナムコフィルムワークス
コラム|花の名を持つ作戦
宇宙革命軍の作戦や艦の名には、花の名前が目立つ。第7次宇宙戦争でニュータイプ部隊が地球を攻撃した「ライラック作戦」、本編の「ダリア作戦」、そしてニコラの部下が死の間際にニコラへ託した、ティファを宇宙へ連れ帰る「バーベナ作戦」。ザイデルの旗艦の名「ガーベラ」もまた、キク科の花の名である。
公式に命名の方針が説明されているかは確認できなかった。だが、地球を焼き尽くす作戦に、地上でしか咲かない花の名が冠されているという対比は、地球への憧れと憎しみを同時に抱えたスペースノイドの屈折を、どこか象徴しているようにも見える。(作戦名・艦名は資料による。対比の解釈は筆者の観察)
最大の兵器を失ったザイデルが次に向かったのは、月だった。月面には、旧連邦軍が最初のニュータイプを封じた施設「D.O.M.E.」がある。資料によれば、ザイデルは大戦中から戦後にかけて、この月面施設への侵攻を何度も試みては失敗していたとされる。第37話、宇宙革命軍とブラッドマン率いる新連邦は、ともに月面を目指して進軍し、第8次宇宙戦争の戦火は月へと広がる。両者が求めたのは、二人がそれぞれ胸に秘めていた言葉、「D.O.M.E.」である。第38話、ティファの力によって、ザイデル、ブラッドマン、ランスロー、そしてガロードたちのフリーデンIIは、D.O.M.E.の施設へと導かれる。そこで待っていたのは、かつてニュータイプと呼ばれた者の意識だった。

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月の声 ― D.O.M.E.とニュータイプ神話の終焉
ザイデルは、D.O.M.E.に何を求めていたのか。資料によれば、彼はD.O.M.E.に接触することで、自らがニュータイプになる、あるいは最初のニュータイプに認められた「選民」になろうと目論んでいたという。他の誰にも崇拝の念を向けなかったザイデルが、ただ一人、D.O.M.E.にだけは崇拝を抱いていたとも語られる。ニュータイプの「定義権」に執着した男は、最後にニュータイプの「起源」そのものを手に入れようとしたのである。 神話の起源を所有する者こそが、神話の唯一の解釈者になれるからだ。
だが、D.O.M.E.の答えは、ザイデルの期待とは正反対だった。第39話、D.O.M.E.はその場に集った人々に、ニュータイプの真実を語る。ニュータイプとは人類の革新などではなく、そのような考えは幻想にすぎない。未来を作るのはニュータイプと呼ばれる者たちだという考えも、間違っている。そうした考えに縛られている限り、未来はない。D.O.M.E.の中枢に招かれたザイデルは、ブラッドマンと醜い言い争いを繰り広げた末、ニュータイプ主義に陥っている限りスペースノイドに未来はないと、突き放されたとされる。
この言葉は、ザイデルの国家神話にとって致命的だった。ニュータイプが人類の革新でないなら、宇宙生活者が選民である根拠も、それを導く総統の権力の正当性も、すべて失われる。しかも、それを告げたのは、地球の敵でも、反逆した部下でもない。ザイデル自身が月まで追い求め、唯一崇めていた存在そのものだった。ザイデルは、自らの神話を完成させるはずだった「起源」によって、神話そのものを否定されたのである。
それでもザイデルは、変わらなかった。D.O.M.E.が機能を停止してもなお、彼はニュータイプ主義にこだわり、戦闘の続行を望んだ。月面の基地を離れたザイデルは、停戦したはずの戦闘が再開されているのを新連邦の策略だと疑い、ブラッドマンの旗艦に砲口を向ける。その直後、新連邦のマイクロウェーブ送信施設を掌握したフロスト兄弟のガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクとガンダムアシュタロン・ハーミットクラブが、サテライトランチャーを放った。宇宙革命軍総統ザイデル・ラッソは、旗艦ガーベラとともに、月の空に散った。最期まで、敵を「オールドタイプ」と罵りながら。ブラッドマンもまた、直後に同じ砲撃によって葬られる。
その後の世界で、宇宙革命軍の実権はランスローへと移り、新地球連邦の側ではジャミルとサラ・タイレルが和平の交渉に加わることになる。独裁者の死が、そのまま戦争の終わりの条件になった。 ザイデルが内部に蒔いた離反の種は、彼の死とともに、和平という形で芽吹いたのである。
コラム|1996年の「ポスト・ニュータイプ」
『機動新世紀ガンダムX』は、1996年4月から12月にかけて、高松信司監督のもとでテレビ朝日系で放送された全39話の作品である。放送局の編成上の都合で放送期間が短縮され、39話で幕を閉じたことでも知られる。宇宙世紀とは別の世界を舞台にしながら、作品の主題はニュータイプという概念そのものに向けられていた。
宇宙世紀のシリーズでは、ニュータイプは「人類の革新」という希望と、「戦争の道具」という現実の間で揺れ続けてきた。『ガンダムX』はその揺れに対して、「ニュータイプは特別な存在ではない」という一つの決着を示した作品として語られることが多い。視聴者のレビューにも、本作のニュータイプ論を、ファーストガンダムでレビル将軍が示したニュータイプ観と並べて評価する声が見られる。
この主題を劇中で背負わされたのが、ザイデルとブラッドマンという二人の指導者だった。二人は、宇宙世紀が積み上げてきた「ニュータイプをめぐる政治」を一身に引き受け、D.O.M.E.の言葉とともに退場していく。ザイデルの死は、一人の独裁者の死であると同時に、シリーズが長く抱えてきたニュータイプ神話の一つの「葬送」でもあった。放送から30年を迎えた2026年、記念企画が始動した今こそ、この独裁者の言葉を読み直す意味があるだろう。(主題に関する評価は筆者の解釈)
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ゲームの中のザイデル ― スーパーロボット大戦とGジェネレーション
ザイデルは、原作以外のゲーム作品にも登場している。とりわけスーパーロボット大戦シリーズでは、宇宙世紀の「本物の」ニュータイプたちと同じ世界に並び立つことで、その思想の歪みがいっそう際立つ形で描かれた。
| 作品 | 主な扱い(資料による) |
|---|---|
| スーパーロボット大戦R | 初登場作品。ネオ・ジオンに所属し、原作と異なり戦死せず、デキム・バートンとともに地球で裁きを受ける。アムロ、シャア、カミーユ、ジュドーらから思想を否定され、同僚のハマーン・カーンにも「ニュータイプが何であるかは自分が決める」という物言いを呆れられる |
| スーパーロボット大戦Z | NPCとして登場し、原作の言い争いと最期が再現される。アプリリウス同盟軍として他勢力と手を結ぶが、ifルートではハマーンに「ニュータイプの意味を履き違えている男」と見限られる。ブラッドマンからは、15年の間にランスロー以外のニュータイプが自陣営に現れていない事実を突きつけられる |
| SDガンダム GGENERATIONシリーズ | 宇宙革命軍の指導者として登場するとされる(調査資料による。本稿では未確認) |
スーパーロボット大戦Rで、アムロがニュータイプは本人が思うほど器用なものではないと指摘し、カミーユが「魂をニュータイプという言葉で縛られている」と評したとされるのは象徴的だ。宇宙世紀でニュータイプという言葉の重さに苦しんだ者たちの前で、その言葉の定義権を主張する男の空疎さが浮き彫りになる。クロスオーバー作品は、原作では描けなかった形で、ザイデルの思想の虚ろさを照らし出したと言えるだろう。
偽りの預言者
ザイデル・ラッソの生涯を振り返ると、そのすべてが一つの問いに収束していくことに気づく。ニュータイプとは何か、そして、それを決めるのは誰か。

ザイデルの答えは明快だった。ニュータイプとは宇宙に生きる選民であり、それを決めるのは総統である。この答えの上に、彼はコロニー落としを強行し、自らをノアになぞらえ、地球生まれのティファを「突然変異」と呼び、和平を説いた部下を処刑した。思想と行動のすべてが、ただ一つの「定義権」を守るために組み立てられていた。
だが、その定義権は、最後に二つの方向から崩されることになる。一つは、ニュータイプの起源であるD.O.M.E.自身が語った真実によって。もう一つは、ニュータイプの規格から外された者たちの、怒りの砲撃によって。上からは神話の起源に否定され、下からは神話に切り捨てられた者たちに撃たれる。偽りの神話の上に築かれた権力は、神話が否定された瞬間に、その根拠をすべて失う。
ザイデルは、方舟を率いて洪水を生き延びたノアではなかった。洪水を起こし、方舟の乗船名簿を自ら書き換え続けた、偽りの預言者だった。そして彼が最後に聞いた月の声は、選ばれた者だけが乗る方舟など初めから存在しなかったことを、静かに告げていたのである。
『機動新世紀ガンダムX』の第1話のタイトルは「月は出ているか?」であり、最終話のタイトルは「月はいつもそこにある」だった。月は、ザイデルが神話の起源を追い求めた場所であり、その神話が終わった場所でもある。ニュータイプという言葉に何を託すかは、それぞれの人間に委ねられている。月がいつもそこにあるように。
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参考文献
一次情報
- テレビアニメ『機動新世紀ガンダムX』(サンライズ、1996年)第1話「月は出ているか?」、第30話「もう逢えない気がして」、第32話「あれはGファルコン!」、第33話「どうして俺を知っている!?」、第34話「月が見えた!」、第35話「希望の灯は消さない」、第36話「僕らが求めた戦争だ」、第37話「フリーデン発進せよ」、第38話「私はD.O.M.E…かつてニュータイプと呼ばれた者」、第39話「月はいつもそこにある」
二次情報
- 機動新世紀ガンダムXの登場人物 – Wikipedia
- List of After War Gundam X episodes – Wikipedia(英語版)
- ザイデル・ラッソ – スーパーロボット大戦Wiki
- 宇宙革命軍 – ピクシブ百科事典
- ニコラ・ファファス – ピクシブ百科事典
- 機動新世紀ガンダムX – ニコニコ大百科
- ランスロー・ダーウェル – ニコニコ大百科
- Garbera – The Gundam Wiki
- Nicola Fafas – The Gundam Wiki
- Roiza – The Gundam Wiki(ミラー)
- 【GジェネF・F.I.F】ニコラ・ファファス – 1P Only
- 機動新世紀ガンダムX 第34話「月が見えた!」 – バンダイチャンネル
- 『機動新世紀ガンダムX』30話あらすじ – 電撃オンライン
- 『機動新世紀ガンダムX』31話あらすじ – 電撃オンライン
- 『機動新世紀ガンダムX』32話あらすじ – 電撃オンライン
- 『機動新世紀ガンダムX』33話あらすじ – 電撃オンライン
- 機動新世紀ガンダムX エピソード情報(第33話) – TheTVDB
- 機動新世紀ガンダムX エピソード情報(第35話) – TheTVDB
- 「機動新世紀ガンダムX」30周年ビジュアル公開 – 映画.com
- 機動新世紀ガンダムX 作品情報 – Natively
- After War Gundam X: Frieden Takes Off(キャスト情報) – IMDbPro
- After War Gundam X(キャスト情報) – JustWatch
- 第7次宇宙戦争 / Seventh Space War – GG.Lab
調査資料に記載のあった参考情報(本稿では直接確認していないもの)
- ザイデル・ラッソ/機動新世紀ガンダムX – NeoApo
- 宇宙革命軍 – ガンダムWiki
- ザイデル・ラッソ【GジェネF・F.I.F攻略】 – 1P Only
- ザイデル・ラッソ | 機動新世紀ガンダムX | キャラクター | マニュアル – ガンダムチャンネル
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