ホワイトファング / White Fang

画像引用元:『新機動戦記ガンダムW』

『新機動戦記ガンダムW』に登場するホワイトファング(White Fang)は、スペースコロニーの過激派を中心に結成された武装組織である。A.C.195年、「コロニーの革命闘士」を名乗るカーンズのもとでロームフェラ財団の巨大戦艦リーブラと月面のモビルドール工場を奪い、ミリアルド・ピースクラフト(ゼクス・マーキス)を指導者に迎えて地球に宣戦を布告した。そして同じ年の12月、最終決戦のなかで組織は崩壊している。

ホワイトファングは、コロニーを抑圧してきた地球への反抗を旗印にした組織だった。ところが最後の戦いに臨んだとき、その陣容は奇妙なものになっていた。旗艦は財団が造った戦艦であり、主力は財団が造った無人兵器であり、頂点に立っていたのは地球の小国の王子であり、軍を指揮していたのは財団代表の孫娘だった。本稿では、組織の名前の由来と前史に始まり、月面での蜂起、指導者の交代、借り物の戦力、二人の指導者が抱いた異なる目的、そしてA.C.195年12月の最終決戦とその後の残党の行方を辿る。そのうえで、ホワイトファングとは、ロームフェラ財団を倒すために、ロームフェラ財団そのものになってしまった組織だったことを確かめてみたい。


白い牙の系譜 ― 名前の由来と前史

「ホワイトファング」を和訳すれば「白い牙」である。TV本編では、この名前がどこから来たのかは語られていない。後年の外伝作品では、ミリアルドがかつて駆った四脚の兵器「魔王」の白い牙にちなんで、カーンズが組織の名を付けたという設定が加えられた。スーパーロボット大戦Wikiは、この設定を小説『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』のものとしている。英語圏の資料には、漫画『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 敗者たちの栄光』で、ミリアルドがテストパイロットとして乗った試作機の武装の名に由来すると説明するものもある。いずれも放映から十年以上後に描かれた設定であり、本編の時点で名前の由来が決まっていたかどうかは分からない。ただ、もしこの設定に従うなら、組織の名前そのものが、のちに招かれる指導者の過去から借りたものだったことになる。

図1 ホワイトファング誕生までの前史(筆者作成・本編および各種資料に基づく)

組織の前史は、A.C.175年の一つの暗殺に行き着く。非暴力・非武装による独立を説いたコロニーの指導者ヒイロ・ユイが、地球側の陰謀によって暗殺されたのである。英語圏の資料の中には、コロニーが地球圏統一連合の支配下に入ったA.C.140年頃から独立派の過激な思想はすでに存在し、A.C.145年には独立の名のもとでテロが起きていたとするものもある。もしそうなら、ヒイロ・ユイの存在は、過激派を抑え込む重しでもあったことになる。その重しが取り除かれたとき、指導者の賛同者だった人々の一部は、言葉ではなく武器による報復へと傾いていった。

その中心にいたのが、カーンズとデキム・バートンだった。二人が練り上げた反抗作戦が、「オペレーション・メテオ」の本来の計画である。コロニーそのものを地球に落とし、その混乱に乗じてガンダムで地上を制圧するという計画で、地球の居住者に膨大な犠牲を強いる、大量殺戮そのものの作戦だった。TV本編の最終話のあらすじでも、カーンズは「オペレーション・メテオの指令をだした」人物として紹介されている。

これに抵抗を覚えたのが、ドクターJをはじめとする5人のガンダム開発者たちである。彼らは本来の計画を無視し、ウイングガンダムなど5機のガンダムだけを地球に降下させて、攻撃の対象をOZに限ることで犠牲を最小限に抑えようとした。物語の幕開けとなるA.C.195年のオペレーション・メテオは、こうして本来の姿とは異なる形で始まっている。

だが、この修正された作戦は失敗に終わる。OZはオペレーション・デイブレイクによって連合を呑み込み、世界の実権はロームフェラ財団が握った。OZの懐柔策を前に、コロニーは独立を求めるどころかOZを受け入れる側に回り、ガンダムの開発者たちまでもが再びOZに協力するようになる。科学者たちが修正した「穏健な」作戦は、コロニーに何ももたらさなかったのである。

「穏健な道は何も変えなかった」という失望こそが、ホワイトファングの出発点だった。 カーンズは、OZを追われたトレーズ派や連合軍の残党といった賛同者を独自に集め、武装決起へと向かっていく。

コラム|もう一つの「白い牙」 ― ジャック・ロンドンの小説

「ホワイトファング」と聞いて、アメリカの作家ジャック・ロンドンの小説『白い牙(White Fang)』を思い浮かべる人もいるだろう。1906年に発表されたこの作品は、ゴールドラッシュ時代の北の原野を舞台に、四分の一だけイヌの血を引くオオカミ「ホワイト・ファング」の生涯を描いた動物文学である。あらゆるものを敵として生き延びてきた彼は、人間に虐げられ、闘犬として戦わされる日々を経て、やがてある人間との出会いによって心を開いていく。

興味深いのは、この小説がガンダムと同じサンライズの手でアニメ化されていることだ。安彦良和がキャラクターデザインを手がけ、1982年に公開された『白い牙 ホワイトファング物語』である。ガンダムWの組織名がこの小説を意識したものかどうかを示す公式の資料は確認できなかった。ただ、小説の主題は「野生」と「飼い慣らし」の間で揺れる生である。誰にも飼われないことを誇りとしながら、結局は他者の道具と他者の指導者に頼っていったガンダムWのホワイトファングと並べてみると、その名前は思いのほか示唆的に響く。


月面の革命 ― アルテミス・レボリューション

ホワイトファングが歴史の表舞台に躍り出たのは、A.C.195年の後半のことである。地球では財団がリリーナ・ピースクラフトを女王に戴く「世界国家」を打ち立てようとしていた。宇宙では、財団の主導で巨大戦艦リーブラの建造が完成に近づいていた。カーンズが動いたのは、まさにその直前だった。

作戦の名は「アルテミス・レボリューション」。月の女神の名を冠したこの作戦で、ホワイトファングはかねてより潜り込ませていた工作員たちを使い、月面基地を一気に制圧した。OZ宇宙軍を率いてモビルドール(MD)の開発を進めていたツバロフを拘束し、建造中のリーブラと、月面のMD工場を手中に収めたのである。ツバロフの抵抗や、思わぬ乱入者となった張五飛によって多少の損害は出たものの、作戦はおおむね成功した。

制圧の直後、カーンズはコロニーの同胞たちに向けて蜂起を呼びかける演説を行う。演説の要旨は、コロニーを抑えつけてきたツバロフの身柄はすでに同志が押さえたこと、地球が長くコロニーから労働力と資源を搾り取ってきたこと、そしてコロニーの民はもともと誰にも支配されない対等な存在であり、いまこそ共に立って宇宙の平和を築くべきだ、というものだった。カーンズは自らの組織を、侵略者でもテロリストでもなく「革命闘士」と呼んだ。財団の側からは、彼らは「コロニー反乱軍」と呼ばれている。

図2 「反地球」組織の雑多な構成(筆者作成・模式図)

ここで目を向けておきたいのは、蜂起に加わった顔ぶれである。中心にいたのはオペレーション・メテオの本来の計画に関わったコロニーの過激派だったが、組織を大きくするために、ホワイトファングはかなり無節操に他の勢力を取り込んでいた。かつてコロニーに圧政を敷いた旧連合軍の残党も、財団派との政争に敗れて行き場を失ったOZトレーズ派の将兵も、「ロームフェラ財団に反発している」という一点だけを理由に迎え入れられている。

「反地球」を掲げる組織の内側には、はじめから地球の軍人たちがいた。 小説版では、物語の開始時点でコロニーを抑圧した張本人である連合の残党を受け入れることに難色を示すメンバーの姿も描かれている。この寄せ集めの構成は、のちに組織が揺らぐ最初の軋轢となる。


招かれた王子 ― ミリアルド・ピースクラフト

月面の工場では、既存のビルゴを、ツバロフが用意していた強化パーツでビルゴIIへと改修する作業が進められていた。その間に、カーンズは自ら地球へ降り、一人の人物に接触する。かつて滅ぼされたサンクキングダムの王子であり、父の無念を晴らすためにゼクス・マーキスの名でOZに身を置いていたミリアルド・ピースクラフトである。OZのクーデターを経て再興したサンクキングダムが財団によって再び崩壊し、ミリアルドは失意の底にあった。

カーンズはこの時点で、自分が組織を率いる器ではないことを認めていた。財団の側には、将兵から絶大な支持を集めるトレーズ・クシュリナーダという存在がいる。それに対抗できる象徴が、ホワイトファングには欠けていた。カーンズはミリアルドを自らに代わる指導者に据え、組織の長の座を譲ったのである。

この決定に、組織の全員が従ったわけではない。幹部の中には、ミリアルドを頂点に迎えることに明確に反対し、組織を去った者もいた。その一人が、のちに外伝作品で重要な役割を果たすビクター・ゲインツである。

ミリアルドを迎えたホワイトファングは、すばやく動いた。財団内での立場を取り戻すべく宇宙要塞バルジへ向かっていた財団代表のデルマイユを、トーラス部隊で襲撃して葬り去る。そしてミリアルドは全世界に向けて、地球と宇宙という二つの存在こそが対立を生むのだと語り、宇宙と対立する存在である地球の排除を宣言した。

続くバルジ攻防戦で、ホワイトファングはMDの物量にものを言わせてOZ宇宙軍を追い込み、最後はミリアルドの駆るガンダムエピオンがバルジそのものを破壊した。OZ宇宙軍は屈し、宇宙の主導権はホワイトファングの手に移った。もっとも、この勝利にも代償はあった。幹部の一人セディッチは、戦闘の後方で油断していたところをバルジ砲に撃たれて命を落としたとされる。

宇宙の覇権を握ったホワイトファングは、ここから手段を選ばなくなっていく。OZの残党が民間人の暮らすコロニーを占拠し、リーブラの返還を求めてきたとき、ミリアルドはその要求に応じず、あえてリーブラの主砲をコロニーへ向けた。リリーナの懇願もむなしく、主砲は放たれている。コロニーを解放するために立ち上がったはずの組織が、守るべきコロニーの市民に犠牲を強いる。大義のためにはそれも辞さないという姿勢が、ここからはっきりと表に出てくる。

図3 指導体制の変遷と組織の亀裂(筆者作成・模式図)

この交代劇を振り返ると、一つの逆説が示唆される。コロニーの独立を掲げる革命軍が、その代表として選んだのは、コロニーではなく地球の王家の血を引く人物だった。 カーンズは組織を強くするために指導者を招いた。だが、招かれた指導者の影響力はあまりに大きく、組織の指揮権は実質的にミリアルドの手に移っていく。さらにミリアルドは、独断でデルマイユの孫娘ドロシー・カタロニアを迎え入れた。カーンズが創った組織の中で、カーンズの居場所は少しずつ失われていったのである。

コラム|指導者を「外から招く」組織の危うさ

組織の創設者が、自分よりも求心力のある人物を外から招いてトップに据える。こうした選択は、現実の政治や企業経営でも決して珍しくない。うまくいけば組織は一気に大きくなるが、そこには構造的な危うさもある。招かれた指導者は、創設者が組織を作った動機を必ずしも共有していないからである。

本作の視聴者の中には、ホワイトファングが外から指導者を「ヘッドハンティング」したことを、組織として一貫性を欠く迂闊な判断と見る声もある。実際、ミリアルドを迎えたことで組織は求心力を得たが、同時にビクターら古参の幹部を失い、創設者カーンズの発言力は弱まっていった。次の章で見るように、カーンズとミリアルドは「地球の排除」という同じ言葉を口にしながら、その言葉にまったく違う意味を込めていた。外から招いた指導者は、組織に力を与えると同時に、組織の目的そのものをすり替えてしまうことがある。


借り物の軍隊 ― リーブラ、モビルドール、そしてゼロシステム

ホワイトファングの軍事力の最大の特徴は、それが新たに築かれたものではなく、ほとんどすべてが奪われたものだったという点にある。

図4 借り物の軍隊 ― 戦力の出自(筆者作成・模式図)
兵器・設備出自ホワイトファングでの役割
リーブラ財団の発注でOZが月面軌道上で建造。設計は5人の科学者旗艦であり事実上の本拠地。設定上の全長3,500m、全高1,500m。戦艦というより宇宙要塞と呼ぶべき規模
ビルゴIIツバロフが用意した強化パーツでビルゴを改修主力の無人兵器。大量に投入された
トーラス占拠したOZの工場で生産性能はOZのものと同じだが、識別のため機体を赤く塗装
ヴァイエイト/メリクリウス5人の科学者に再建造させた機体MDとして運用。決戦前に破壊される
ガンダムエピオントレーズが製作し、ヒイロを経てミリアルドの手にミリアルドの乗機。組織の象徴となる有人機
MD管制室(ゼロシステム)エピオンの戦闘システムを組み込んだ設備。ミリアルドが設置ドロシーが使用し、MDの軍団を指揮

星座の名を持つ要塞

中心にあったのは、言うまでもなくリーブラである。その名はOZの命名規則どおり、黄道十二星座の一つ「天秤座」から取られている。ツバロフの指揮のもと月で建造が進められていたこの巨艦は、本来なら財団の宇宙支配を支える柱となるはずだった。財団が造らせた艦を、ホワイトファングはそのまま自らの本拠地にしたのである。

リーブラの中央部には、絶大な威力を持つ大型ビーム砲が据えられていた。しかし、この主砲には設計者である5人の科学者たちによって意図的な欠陥が仕込まれていた。一度撃つたびに大がかりな修理が必要になり、連続した砲撃ができないのである。

人形の軍隊と、未来を見る少女

もう一つの柱がMDだった。ホワイトファングの戦い方は、月面工場を手に入れてから急速にMDへと偏っていく。アルテミス・レボリューションの段階では有人のMSも使っていたが、その後はビルゴIIに加え、有人機として使えるトーラスや、わざわざ再建造させたヴァイエイトとメリクリウスまでもMDとして運用した。最終決戦の時点で、ホワイトファング側の有人機として目に付くのは、実質的にエピオン一機だけといってよい状態だった。

このMDの軍団を束ねたのが、ドロシー・カタロニアである。ミリアルドはリーブラの内部に、エピオンの戦闘システム――パイロットに未来の予測を見せるゼロシステム――を組み込んだMDの管制室を設けた。その部屋を使ったのはドロシーただ一人である。敵の動きを予測するゼロシステムの力を借りて、彼女はMDの群れを人間の兵士以上の精度で動かした。財団代表デルマイユの孫娘が、財団から奪われた人形の軍を、財団の敵として指揮したことになる。

ゼロシステムでMD軍を指揮するドロシー・カタロニア
画像引用元:『新機動戦記ガンダムW』 ©バンダイナムコフィルムワークス

ホワイトファングの軍は、戦艦も、兵士も、それを操る頭脳も、すべて敵勢力から奪取したものであった。 そして、それら奪い取った兵器には仕掛けがついていた。リーブラの主砲には設計者の欠陥が、MDには制御系への介入という弱点が、それぞれ潜んでいた。その仕掛けが牙をむくのは、最後の戦いの最中である。

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ヒイロとトロワの戦闘データを宿した二体のMD。ホワイトファングが科学者たちに再建造させ、人形の軍に組み込んだ「借り物の兵器」の象徴を、二機セットで。


二つの戦争 ― カーンズの復讐とミリアルドの劇場

ホワイトファングは「地球の排除」という一つのスローガンを掲げていた。だが、その言葉の意味は、二人の指導者の間でまったく違っていた。

図5 同じ旗の下の、二つの戦争(筆者作成・筆者の解釈を含む概念図)

カーンズにとって、戦いの目的ははっきりしていた。指導者ヒイロ・ユイを死に追いやった地球への復讐であり、自分たちが練った本来のオペレーション・メテオを完遂すること、すなわち地球人類を排除することそのものが目的だった。「コロニーの解放」という大義は、こうした復讐を正当化するための方便にすぎなかったという見方もある。皮肉なことに、ヒイロ・ユイ暗殺の黒幕とされる連合のセプテム将軍は、物語のかなり早い段階ですでに命を落としていた。

一方、ミリアルドの真意は別のところにあった。かつてない規模の戦禍をもたらすことで、人類全体に戦争への嫌悪を骨の髄まで刻み込む。地球の排除は、そのための手段にすぎなかったのである。バンダイナムコエンターテインメントのゲーム紹介文も、彼が地球の排除を宣言したのは、全人類に戦いの恐怖と愚かしさを教えるためだったと説明している。劇中でもドクターJが、ゼクスは絶大な力を行使することで人々の心に戦争への恐怖を呼び覚まそうとしたのだと語っている。ミリアルドが見ていたのは、地球の滅亡そのものではなく、その恐怖が人々の心に残す傷だった。

そしてこの構図には、もう一人の役者がいる。幽閉を解かれ、世界国家の元首となったトレーズである。トレーズは地球に残るすべての兵器を宇宙に上げ、ホワイトファングとの全面対決に臨んだ。トレーズが率いた世界国家軍はすべて有人のMSで構成されており、人形の軍を主力とするホワイトファングとは対照的だった。トレーズとミリアルドは敵として向かい合いながら、戦争の虚しさを人類に思い知らせる「最後の戦い」の舞台を、ともに用意していたと読むことができる。

トレーズの再起は、ホワイトファングの内部にも直接の打撃を与えた。トレーズが表舞台に戻って対決を宣言すると、組織にいたトレーズ派や旧連合の将兵たちは離反してしまう。小説版では、彼らが一斉に逃亡を図る様子も描かれている。財団への反発だけで結び付いていた寄せ集めの組織は、財団に代わる「本物の敵」が現れた瞬間に、その結び目をほどかれたのである。

ホワイトファングは、一つの旗の下で二つの戦争を戦っていた。 カーンズは文字どおりの復讐戦を、ミリアルドは人類のための悲劇を。両者が同じ方向を向いていられたのは、地球に向かって進んでいる間だけだった。


12月24日 ― 最終決戦とリーブラの落日

A.C.195年に地球圏を覆った一連の戦乱は、のちに「EVE WARS(イブ・ウォーズ)」と呼ばれる。その最終局面となる12月24日、世界国家軍とホワイトファングは全面的な激突に至った。そこにどちらの陣営にも属さない第三の勢力として加わったのが、宇宙戦艦ピースミリオンを拠点とする5人のガンダムパイロットたちである。彼らは、リーブラこそがいま人類にとって最大の脅威であると判断し、攻撃に向かった。

図6 A.C.195年12月 最終決戦の推移(筆者作成・TV本編の描写順に基づく)

戦いは、ホワイトファングにとって思うようには進まなかった。ガンダムパイロットたちの行く手はエピオンとビルゴIIの巧みな連携に阻まれたが、肝心のMDの軍団には、すでに見えない仕掛けが施されていた。ホワイトファングに協力させられていた5人の科学者たちがプログラムを改竄し、ビルゴが世界国家軍のリーオーとまともに戦えないようにしていたのである。トロワとカトルの破壊工作も重なって、主力のMDは機能を失っていった。なお、ときた洸一による漫画版では、MDがリーオーを攻撃すること自体ができなくされており、しかもそれがミリアルド自身の依頼で行われたことになっているという。ミリアルドがこの戦いを「劇場」として見ていたのだとすれば、その描写は示唆的である。

さらにピースミリオンが、リーブラの主砲を止めるために特攻を敢行する。艦首を突き込まれたリーブラは主砲を破壊され、切り札を失った。それでもミリアルドは引かなかった。エンジンがまだ生きていることを確かめると、リーブラそのものを巨大な質量弾として地球に落とすことを決めたのである。かつてカーンズとデキムが構想した本来のオペレーション・メテオが、コロニーの代わりにリーブラを使って、最後の局面で再現されようとしていた。

その間に、世界国家軍の側では大きな出来事が起きていた。トールギスIIを駆って戦場に立ったトレーズが、張五飛のアルトロンガンダムに討たれたのである。トレーズの死を受けて、世界国家軍を率いるレディ・アンは敗北を宣言し、生存者を資源衛星MO-IIへ避難させた。しかし、地球人類の排除にこだわるカーンズもミリアルドも、戦いを止めなかった。レディ・アンは、戦争の哀しさとむなしさを人々の心に刻むため、ヒイロとゼクスの最後の戦いを全宇宙に中継させている。戦争を終わらせる言葉は、もはや意味を持たなかった。

リーブラが落下を続ける中、デュオによってリーブラへ送り届けられた5人の科学者たちは、落下を阻止しようと動き出す。そこに現れたのが、ヒイロ・ユイの復讐のためにオペレーション・メテオを発動し、いままたリーブラを地球に落とそうとするカーンズだった。科学者たちは、戦乱を招いてしまった自らを裁くかのように動力を暴走させ、リーブラを自爆させる。カーンズはこの爆発に巻き込まれて消息を絶った(このとき死亡したとする資料もある)。だが、リーブラの一部はなお地球に向かって落ち続けていた。それが地表に落ちれば、地球を寒冷化させ、全土に被害を及ぼすとされた。

落ちていく残骸の中で、ヒイロ・ユイのウイングガンダムゼロとミリアルドのエピオンが最後の一騎打ちを演じる。勝ったのはヒイロだった。ヒイロは、残骸を破壊するにはガンダムの自爆装置しかないと判断して、その手をかける。敗れたミリアルドは、リーブラの動力部を自ら爆発させ、それに巻き込まれて消息を絶った。それでもなお落ち続ける残骸に対し、ヒイロはウイングガンダムゼロのツインバスターライフルを最大出力で放ち、これを完全に破壊した。

こうしてホワイトファングは、旗艦リーブラと主力のMD、そしてカーンズとミリアルドという二人の指導者を同時に失った。組織は降伏したのでも解散を宣言したのでもなく、指導者と戦力をまとめて失ったことで、自然に消滅したのである。

最期の死闘を演じるウイングガンダムゼロとエピオン
画像引用元:『新機動戦記ガンダムW』 ©バンダイナムコフィルムワークス

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落ちていくリーブラの残骸を、大気圏で撃ち砕いた最後の一射。ホワイトファングの物語に幕を下ろしたTVシリーズ版のウイングゼロを、完全新規造形のRGで。


牙の残響 ― 残党たちのその後

A.C.195年の最終決戦で、ホワイトファングという組織は失われた。だが、その思想と兵器は、別の名前を名乗って戦いを続けていた。外伝作品が描いた残党たちの行方を、主なものに絞って見ておこう。

図7 牙の残響 ― 残党たちのその後(筆者作成・各外伝作品の描写に基づく)

『BLIND TARGET』 ― 新生ホワイトファング

ラジオドラマ『新機動戦記ガンダムW BLIND TARGET』では、戦いの結末に納得できなかった残党の一部が、コロニーの代表たちが地球にコロニーを売り渡そうとしていると思い込み、今度こそ地球を排除しようと動き出す。ラルフ・カートが率いる「新生ホワイトファング」の部隊は、コロニー会議の代表を狙った爆破テロを起こし、秘密裏に格納されていた5機のガンダムの奪取をもくろんだ。

ラルフも、その幼なじみのクリス・マーレイも、かつて連合軍の弾圧によって家族や居場所を奪われた若者だった。だが、彼らは新たな指導者となった元幹部のソグランに利用されていたにすぎない。前大戦にも参加し、リーブラの墜落とともに姿を消していたソグランは、財団傘下の軍需企業センチュリー・ディスカバー社から資金を受け、奪ったガンダムを量産させて地球圏全体を支配しようとしていたのである。その野心はガンダムパイロットたちによって暴かれ、ホワイトファングは再び崩壊した。ラルフとクリスは、トロワやリリーナとの交流を通じて改心していく。

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『BATTLEFIELD OF PACIFIST』 ― 力による平和

漫画『新機動戦記ガンダムW BATTLEFIELD OF PACIFIST』には、ミリアルドを迎えることに反対して組織を去ったビクター・ゲインツが登場する。彼は表向きは平和主義団体を装った武装組織「パーフェクト・ピース・ピープル(P3)」を結成し、MDを大量生産する資源衛星ウルカヌスと、その番犬となる大型MDスコーピオを手に入れた。そして、自分たち以外の者が兵器を持つことを許さないと宣言する。

ビクターは最後にガンダムとの戦いに敗れて命を落とす。ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルに消える間際、なぜ自分を選ばなかったのかとカーンズへの恨みを残したという。 その姿は、ホワイトファングの思想がミリアルド一人のものではなかったことを物語っている。

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『Endless Waltz』 ― 本来の計画への回帰

A.C.196年12月、トレーズの遺児マリーメイア・クシュリナーダを擁立したデキム・バートンが地球に宣戦を布告する。OVA『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』で描かれたこの反乱で、デキムのもとにはホワイトファングの残党の一部が加わっていた。かつてカーンズとともにオペレーション・メテオの原案を練ったデキムのもとに、カーンズの組織の残党が流れ込んだのは、偶然ではないだろう。デキムが掲げたのもまた「真のオペレーション・メテオ」だった。

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『DUAL STORY G-UNIT』 ― 同時代の失態

最終決戦と同じ時期を描いた漫画『新機動戦記ガンダムW デュアルストーリー G-UNIT』にも、ホワイトファングのメンバーは顔を出している。ピクシブ百科事典によれば、手柄を焦ったドルニエは、OZプライズが流した偽の情報を鵜呑みにして戦力を勝手に持ち出し、返り討ちに遭ったうえ、保有していたMDまで奪われてしまう。

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財団の鏡像 ― ホワイトファングはなぜ敗れたのか

ここまでの歩みを、ホワイトファングが倒そうとした相手、ロームフェラ財団と並べてみよう。

図8 財団の鏡像 ― ロームフェラ財団とホワイトファング(筆者作成・筆者の解釈を含む)

並べてみると、二つの組織は驚くほどよく似ている。財団は傘下の軍需工場とOZによって力を得た。ホワイトファングは、その財団から工場と戦艦を奪って力を得た。財団はMDによって「死なない軍隊」を手に入れようとし、トレーズに背かれた。ホワイトファングもまたMDを主力とし、最後は有人機をほとんど持たない軍で決戦に臨んだ。財団は血統の威光を借りるために女王リリーナを擁立した。ホワイトファングは、組織の顔としてサンクキングダムの王子ミリアルドを招いた。カーンズのやり方は、彼が嫌っていたツバロフのやり方と、ガンダム嫌いという一点を除けばほとんど同じだったのである。

そして崩壊の仕方まで、両者はよく似ていた。ロームフェラ財団の記事で見たように、財団は自ら作った道具――OZ、MD、世界国家、女王――のすべてに裏切られて滅んだ。ホワイトファングもまた、自らが頼ったものに足をすくわれた。リーブラの主砲は設計者の欠陥によって撃ち続けることができず、MDは科学者の改竄によって戦う力を奪われた。寄せ集めの将兵はトレーズの再起とともに去り、招いた指導者は組織の目的を「復讐」から「悲劇」へとすり替えた。そして最後にリーブラを止めたのは、ホワイトファング自身が協力させていた5人の科学者たちだった。

ホワイトファングが敗れた要因は5機のガンダムの介入というより、なりふり構わなすぎるやり方にあったと評されることもある。この評価は正鵠を射ているように思われる。ホワイトファングは、勝つために手に入るものを何でも使った。地球の軍人も、地球の王子も、財団の戦艦も、財団の人形も、財団代表の孫娘も、OZに協力した科学者も。そのどれもが、ホワイトファングのために作られたものではなかった。

ホワイトファングは、ロームフェラ財団を倒すために、ロームフェラ財団と同じ道を歩んだ。だからこそ、財団と同じ結末を迎えたといえる。


誰のものだったのか

ジャック・ロンドンの小説で、ホワイト・ファングは誰にも飼われずに生きることを誇りとしながら、最後には一人の人間のもとで新しい生き方を見いだしていく。その牙は、彼自身が生き延びるために研ぎ澄ましてきた、彼だけのものだった。

ガンダムWのホワイトファングの牙は、そうではなかった。リーブラの主砲も、ビルゴIIのビームも、エピオンの剣も、すべては他者によるものだった。外伝の設定に従うなら、「白い牙」という名前でさえ、ミリアルドの過去から借りたものだったことになる。コロニーの独立という言葉は本物だったかもしれない。しかし、その言葉を支える力のほとんどは、倒すべき相手の手の中で作られたものだった。

それでも、ホワイトファングが無意味だったわけではない。この組織が見せつけた「地球を滅ぼしかねない恐怖」は、地球とコロニーの双方に戦争の凄惨さを刻み込んだ。戦いのあと、地球と宇宙はともに地球圏統一国家のもとで歩み始め、兵器の放棄へと向かっていく。ミリアルドが望んだ「悲劇」は、少なくともその幕切れにおいては、彼の意図どおりの効果を残したと言えるのかもしれない。

ホワイトファングとは、借り物の牙で地球に挑み、その牙ごと砕かれることで、皮肉にもアフターコロニーの世界を戦争の終わりへと押し出した組織だったのではないだろうか。白い牙は折れた。だが、折れた牙が残した傷跡こそが、次の時代の平和の起点になったのである。


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白い牙(ジャック・ロンドン、新潮文庫)
組織名と同じ名を持つ、動物文学の古典。野生と飼い慣らしの間で揺れたオオカミの生涯を読んでから本編を見返すと、「白い牙」という名前が違って見えてくる。


参考文献

一次情報

二次情報

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