
『新機動戦記ガンダムW』に登場するロームフェラ財団(Romefeller Foundation)は、ヨーロッパの王侯貴族や特権階級を中心に構成された組織であり、地球圏統一連合の創設にも関わってこれを背後から支え、その軍事部門として秘密結社OZを擁した、アフターコロニー(A.C.)世界の「影の支配者」である。A.C.195年、財団はOZを通じて連合を倒し、地球圏の表舞台に立った。そして一年も経たないうちに、その舞台から姿を消している。
世界の頂点に立ったはずの財団は、なぜこれほど短い間に崩れ去ったのか。財団を追い詰めたのは、財団自身が作り出したものたちだった。本稿では、名前の由来と原初の理念に始まり、財団が世界を動かした仕組み、その中枢にいた人々、そしてオペレーション・デイブレイクからA.C.195年12月24日の最終決戦に至る興亡を辿る。そのうえで、ロームフェラ財団とは、自ら生み出した四つの道具のすべてに裏切られて滅んだ組織だったことを確かめてみたい。
貴族たちの財団 ― 名前の由来と原初の理念
「ロームフェラ」という名前は、現実のアメリカの富豪ジョン・D・ロックフェラーが設立したロックフェラー財団を強く連想させる。命名の経緯を明言した公式資料は確認できなかったが、その名をもじったものと見るのが自然だろう。劇中の財団はアメリカの実業家ではなく、ヨーロッパの王侯貴族の集まりとして描かれるが、莫大な私財を背景に世界の動きに影響を与える組織というイメージは、たしかに現実の大財団の姿と重なっている。
財団は、欧州の王侯貴族ら伝統を重んじる世襲の特権階級によって設立された、古くから存在する団体である。本来の目的は、その財力を駆使して美しい自然や古き良き伝統を保護することにあった。しかし、いつしか既得権益の保護と拡大を目的とする色彩が極めて濃くなり、地球圏統一連合の設立にも関与すると、連合軍へのオブザーバーの派遣やOZの創設を通じて、連合の政策に深く干渉できるほどの影響力を持つようになった。トレーズ・クシュリナーダら一部のメンバーは、こうした財団の変質を憂えていたとされる。
コラム|現実のロックフェラー財団とは
現実のロックフェラー財団は、石油王ジョン・D・ロックフェラーらによって1913年に設立された、ニューヨークに本部を置く民間の慈善団体である。同年5月14日にニューヨーク州知事の承認を得て正式に発足し、その設立目的には「世界中の人類の福祉を増進すること」が掲げられた。設立直後から公衆衛生に力を注ぎ、海外での感染症対策のための国際保健委員会を立ち上げるなど、近代的な公衆衛生の仕組みづくりに大きな役割を果たしている。
つまり、名前が連想させる現実の財団は「人類の福祉」を掲げた慈善団体であり、劇中のロームフェラ財団のような軍事組織ではない。一方で、巨大な資金を持つ民間財団が国家の枠を超えて影響力を持つという構図は、20世紀を通じてしばしば議論の対象となってきた。劇中の財団は、そうした「国家ではないのに世界を動かす組織」という像を、ヨーロッパの貴族主義と結び付けて極端なかたちで描いたものと読むことができる。そして、自然と文化の保護という高潔な理念から出発しながら、やがて権益の守護者へと変質していく財団の姿は、現実の慈善団体の理想を裏返した鏡像のようでもある。

物語が始まるA.C.195年の時点で、財団は表には出ていない。地球と宇宙を統治しているのは地球圏統一連合であり、宇宙のコロニーは連合の軍事的な支配の下に置かれていた。財団はその連合の設立に関わり、連合軍にオブザーバーを送り込み、さらに連合軍の内部にOZという私兵を潜ませていた。完全平和主義を掲げる小国サンクキングダムや、コロニーの自立を求める勢力は、財団にとって体制の障害でしかなかった。

財団の歩みを大づかみに見ると、二つの曲線が交差していく様子が浮かび上がる。表に見える権力が増すほど、原初の理念は薄れていった。そして権力が頂点に達した瞬間から、財団の崩壊が始まる。財団は、理念を捨てて手に入れた権力によって、自らを滅ぼしていくことになる。
見えざる三層構造 ― 財団・OZ・連合
ロームフェラ財団の支配の特徴は、自らが表に立たないことにあった。その仕組みは、三つの層に分けて理解することができる。

最上層にあるのは、地球圏統一連合という「表の政府」である。民衆の目に見えるのはこの層だけだった。その下に、連合軍の一部門を装いながら財団の意思で動くOZがある。そして最下層に、資金と人事と兵器開発を握る財団そのものが控えていた。財団は傘下の軍需工場で生産したMSを連合軍に納入し、地球とコロニーの対立を煽ることで、実質的に地球圏の政治と経済を掌握するに至っていた。
黄道帯の名を持つ私兵
OZ(Organization of the Zodiac/黄道帯機構)は、財団の軍事部門である。表向きは連合軍の特殊部隊「スペシャルズ」を名乗っていた。OZの結成は、コロニーの非暴力・非武装を説いた指導者ヒイロ・ユイがA.C.175年に暗殺された後のことで、財団が自らの障害となる思想の持ち主を排除した直後に組織されたとされる。その前身については、暗殺を担った連合軍の特殊工作部隊だったとする説と、地球からコロニーへ機材を運ぶ運送会社だったとする説がある。
OZの力の源は、モビルスーツ(MS)にあった。後にガンダムを開発する科学者たちもかつてはこの組織に身を置き、機動力と防御力を兼ね備えたトールギスを生み出している。OZが連合各国に提供したMSは、いずれもこのトールギスから派生したものとされ、リーオーをはじめとする量産機が連合軍の主力となっていった。

この仕組みは、一つの回路として見ることができる。財団の資本が兵器を生み、OZがその兵器を連合軍に供給する。MSを握る者は軍の中で発言力を増し、OZはどの戦地でも単独で行動できる特権を得た。その発言力は財団の政治的影響力となって、次の資本と発注を呼び込む。戦争が続くほど回り続けるこの回路こそが、財団の権力の正体だった。 OZの将兵は連合軍の中で一階級上の待遇を受け、最下級の「特士」でも「騎士」の称号を、特尉以上は貴族としての称号を与えられたとされる。正規の連合軍の古参将校たちが、OZを「貴族の道楽で戦争をしている」と冷ややかに見ていたのも無理はない。
名門の系譜 ― 財団を動かした人々
ロームフェラ財団は、組織であると同時に「家」の集まりでもあった。本編で財団の意思決定に関わった主な人物を見てみよう。

| 人物 | 立場 | 財団における役割 |
|---|---|---|
| デルマイユ侯爵 | 財団代表(総裁代行) | 本編における財団の実質的な最高権力者。既得権益の死守と強硬な貴族主義を体現した |
| トレーズ・クシュリナーダ | OZ総帥、デルマイユの甥 | 騎士道を重んじるカリスマ。将兵から絶大な支持を集めた |
| ドロシー・カタロニア | デルマイユの孫娘、トレーズの従姪 | 戦争を美しいものとして語る令嬢。トレーズを慕う |
| ツバロフ技師長 | 財団の兵器技術者 | 無人兵器モビルドール(MD)の開発を推進した |
| レディ・アン | トレーズの腹心 | トレーズへの忠誠を軸に動くOZの将校 |
| リリーナ・ピースクラフト | サンクキングダム元首 | 財団代表、そして世界国家の女王に擁立される |
財団の顔となったのは、デルマイユ侯爵である。劇中では「デルマイユ公」とも「デルマイユ侯」とも呼ばれ、資料によって侯爵とも公爵ともされる。本編では姓が明かされていないが、小説『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』では孫と同じ「デルマイユ・カタロニア」と表記されている。公式のキャラクター紹介によれば、デルマイユはトレーズの叔父であり、甥のトレーズに次期総帥としての期待を寄せていた。孫娘のドロシーはトレーズとは遠縁の従姪にあたり、幼い頃にはトレーズやミリアルド(ゼクス・マーキス)に遊んでもらっていたとされる。
ここで押さえておきたいのは、財団の中枢にいた人々が、血縁で結ばれていながら、最初から同じ方向を向いていたわけではないという点である。デルマイユは財団の権益を、トレーズは自らの美学を、そしてドロシーは「戦争そのもの」を見ていた。財団が表舞台に立ったとき、この食い違いは一気に表面化することになる。

画像引用元:『新機動戦記ガンダムW』 ©バンダイナムコフィルムワークス
夜明けの作戦 ― オペレーション・デイブレイク
A.C.195年、五機のガンダムがコロニーから地球へ降下し、オペレーション・メテオが始まる。その混乱に乗じて、トレーズはオペレーション・デイブレイクを発動した。OZは偽の情報を流してガンダムのパイロットたちを誘導し、連合の和平派が平和会議を開いていたニューエドワーズ基地を攻撃させた。こうしてコロニーとの対話を唱えていたノベンタ元帥ら連合の首脳部が討たれると、OZは各地で決起し、ゼクスはルクセンブルクの連合本部を制圧した。OZは連合の軍事力を掌握し、旧連合を制圧・吸収したのである。自らの手を汚さず、敵であるはずのガンダムに和平派を討たせたこの作戦は、財団とOZのやり方をよく表している。

この作戦によって、財団の権力は「影」から「表」へと移った。連合の背後に隠れていた財団は、OZを通じて地球圏の表の主となる。名前の「デイブレイク(夜明け)」は、財団にとってまさに表舞台の夜明けだった。
だが、ここで一つの変化が起きている。それまでOZは、財団の意思を実行する手足にすぎなかった。ところが表舞台に立った瞬間から、OZは独自の顔と声を持ち始める。将兵の多くが忠誠を誓っていたのは、財団の老貴族たちではなく、総帥トレーズ・クシュリナーダその人だったからである。財団が作った一つ目の道具、OZは、ここから財団の手を離れ始める。
人形の軍隊 ― モビルドールを巡る分裂
地球圏を手に入れた財団は、その支配をより確かなものにする手段として、無人兵器モビルドール(MD)に目を付けた。ツバロフ技師長が開発を進めたMDは、人間のパイロットを必要としない自律型の兵器である。超人的な反応速度を持ち、恐れを知らず、いくらでも量産できる。財団の主流派にとって、これほど都合のよい兵器はなかった。自らの手を汚さずに、敵対する勢力を抑え込めるからである。デルマイユの指示のもと、デルマイユとツバロフを中心に、MDを用いてOZを財団の手に収める「オペレーション・ノヴァ」が進められた。表向きは紛争の鎮圧だったが、その実は財団の力を世界に見せつけ、反旗を翻したトレーズ派を粛清することにあったとされる。
これに真っ向から異を唱えたのが、トレーズだった。トレーズにとって戦争とは、人間が信念と命を賭けて臨むものであり、そこで流される血と、敗れた者への哀悼があってこそ、人間の尊厳は保たれる。命の危険を負わない人形による殺戮は、戦争から人間を消し去るものにほかならなかった。

両者の対立を並べてみると、争点が兵器の性能ではなかったことが分かる。問われていたのは、「誰が血を流すべきか」という、支配する者の義務についての考え方だった。デルマイユらにとって、貴族とは安全な場所から命令を下す者である。トレーズにとって、貴族とは誰よりも先に自ら傷を負う者である。同じ「貴族」という言葉の下に、正反対の二つの理想が同居していたのである。
総帥の更迭と、OZの内乱
財団の方針を公然と批判したトレーズは、OZ総帥の座を解かれ、幽閉の身となった。しかし、トレーズを慕う将兵たちはこれに従わない。OZは、MDによる支配を進める財団派と、有人のMSによる戦いを重んじるトレーズ派に割れ、内乱へと突入する。かつてゼクスが制圧した連合本部の地、ルクセンブルクはトレーズ派の拠点となり、そこへ財団が差し向けた大量のMDが降下した。
財団はMDを選ぶことで、たしかに「死なない軍隊」を手に入れた。だがその代わりに、それまで自分たちのために命を張ってきた将兵の忠誠を失った。二つ目の道具であるMDは、敵を倒す前に、財団を支えてきた軍そのものを内側から割ってしまったのである。
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MDによる支配に背を向けたトレーズが、幽閉の中で完成させた「理念のガンダム」。射撃を捨て、剣と鞭で一騎討ちに臨む姿は、人形の軍隊への最も雄弁な反論である。

コラム|モビルドールと現実の「自律型致死兵器システム」
人間の操作なしに標的を選び、攻撃する兵器。かつてはSFの題材だったMDのような兵器は、いまや現実の国際政治の議題になっている。いわゆる自律型致死兵器システム(LAWS)である。
LAWSを巡っては、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みのもとで、2014年以降ジュネーブで各国の協議が続けられてきた。国連のグテーレス事務総長は2026年末を規制づくりの期限として掲げている。2026年9月に公表された国連の専門家会議の報告書では、LAWSにも既存の国際人道法が全面的に適用されること、そして使用の責任は国家や個人が負い、機械に転嫁することはできないことが確認された。同年11月のCCW再検討会議では、法的拘束力のあるルールを目指すかどうかが議論される見込みである。
現実の議論の焦点の一つは、「有意な人間の関与」をどう確保するかにある。これは、トレーズがMDに向けた批判と驚くほど重なっている。トレーズが問題にしたのは、無人兵器が強すぎることではなく、戦争から「責任を負い、痛みを引き受ける人間」が消えてしまうことだった。報告書が「責任を機械に転嫁することはできない」と書いたとき、そこには、30年あまり前のアニメが描いた問いへの、現実の世界なりの答えが含まれていると言えるかもしれない。
女王の誕生 ― 世界国家という劇場
MDの軍団は、完全平和主義を掲げて再興されていたサンクキングダムにも向けられた。王国は武力の前に陥落し、デルマイユは次の一手に出る。王国の元首だったリリーナ・ピースクラフトを、財団の代表、そして新たに樹立する「世界国家」の女王に据えたのである。この政治劇は、財団の歴史の中で最も大胆で、最も致命的な一手だった。
デルマイユの狙いは明確だった。ピースクラフト家の血統と、反財団の象徴となっていたリリーナ自身の人気を利用し、民衆の反感を抑え込む。国家の垣根を取り払う「世界国家」という理想を掲げながら、実際には財団による地球圏の一元支配を完成させる。表の顔に清らかな女王を据え、実権は財団が握る。教科書どおりの傀儡政治である。

ところが、この計算はことごとく裏返る。リリーナはお飾りにとどまらなかった。女王となったリリーナは、OZの武装排除を宣言し、自らの信念である完全平和主義のもとに世界を導こうとしたのである。その出自とカリスマによって、彼女はウェリッジ侯爵をはじめとする財団幹部の人心をつかみ、支持は財団の内部にまで広がった。財団の最高幹部会でリリーナがOZ地上軍の解体を提案したとき、デルマイユはこれに激しく反論したが、幹部たちの多くはすでにリリーナの側に立っており、デルマイユの意見は通らなかった。
血統の威光は民衆を従わせる鎖になるはずだった。財団代表の座は、傀儡に権威を貸すための飾りのはずだった。だが、デルマイユが用意した舞台装置は、その一つひとつがそのまま女王の武器になった。 三つ目の道具である世界国家と、四つ目の道具である女王は、財団の手から主導権を奪い去ったのである。

画像引用元:『新機動戦記ガンダムW』 ©バンダイナムコフィルムワークス
コラム|擁立された象徴は、なぜ擁立者を超えるのか
実権を握る者が、民衆の支持を集めるために象徴的な人物を担ぎ出す。歴史を見れば、こうした傀儡の擁立は珍しくない。そしてその多くは、擁立者の思惑どおりに象徴が「飾り」として機能した例である。象徴が擁立者を超えるには、少なくとも二つの条件が要る。象徴自身が擁立者とは異なる明確な理念を持っていること、そしてその理念を民衆に直接届ける手段があることである。
リリーナの場合、この二つがそろっていた。完全平和主義という一貫した理念を、彼女はサンクキングダムの時代から語り続けていた。そして財団は、彼女を女王に仕立てるために、財団代表の座と女王としての発言の場を、そっくり彼女に預けてしまった。デルマイユの誤算は、リリーナを「血統」として見て、「言葉を持つ人間」として見なかったことにある。財団が貸し与えたのは権威の衣装だけのつもりだったが、実際には、その衣装をまとった人物の声を世界中に届けるマイクまで手渡していたのである。
侯爵の墜落 ― デルマイユの死とトレーズの復権
財団の中で孤立したデルマイユは、立場を取り戻すために動く。リリーナの暗殺も考えたが、その考えは孫娘ドロシーに見透かされて退けられ、逆にドロシーにけしかけられるかたちで、財団内での発言力を強めるべく、OZ宇宙軍を手中に収めようと宇宙要塞バルジへ向かった。だが、その途上でデルマイユの乗るシャトルはホワイトファングの攻撃を受けて爆発し、財団を率いてきた老貴族はあっけなく命を落とした。
デルマイユの死によって、財団の崩壊は決定的となる。その空白を埋めたのは、幽閉を解かれて表舞台に戻ったトレーズだった。クーデターによってOZ総帥に返り咲いたトレーズは、リリーナに「ここは彼女の居場所ではない」と告げて代表の任を解き、自ら世界国家の元首となった(その時期を12月4日とする資料がある)。

年表に並べてみると、財団の「表の時代」がいかに短かったかがよく分かる。オペレーション・デイブレイクで表舞台に立ってから、デルマイユの死とトレーズの復権まで、すべてはA.C.195年の一年の中で起きている。長い歴史を通じて影から世界を動かしてきた貴族たちは、光の下ではわずか一年も持ちこたえられなかった。
最後の舞踏 ― 最終決戦と財団の終焉
世界国家の元首となったトレーズは、地球の情勢を即座に片付けると、地球に残るすべての兵器を宇宙へと上げ、ミリアルド・ピースクラフト(ゼクス・マーキス)が率いるホワイトファングとの全面対決に臨んだ。A.C.195年の一連の戦乱は、のちに「EVE WARS(イブ・ウォーズ)」と呼ばれる。その最終局面となる12月24日、世界国家軍とホワイトファングは激戦を繰り広げた。
トレーズの目的は、財団の覇権を守ることではなかったと考えられている。戦争の虚しさを人々に思い知らせるための「最後の戦い」の舞台を、ミリアルドとともに用意すること。それが、トレーズが選んだ幕の引き方だったと読むことができる。トレーズは自らトールギスIIを駆って世界国家軍を率い、その最中に張五飛のアルトロンガンダムと一騎打ちに臨む。激闘の末、アルトロンの矛がトールギスIIを貫き、トレーズは戦争開始から10万と10人目の戦死者となった。財団派が最後まで手放そうとしなかった「自ら血を流す」という役割を、トレーズはただ一人で引き受けたのである。
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トレーズが最後に剣を交えた相手、張五飛の愛機。トレーズを「悪」と断じ続けた五飛を、トレーズは最大の理解者と呼んだ。財団の物語の幕を引いた双頭の竜を手元に。


戦争の終結とともに、ロームフェラ財団は政治と軍事の主体としての力を完全に失い、歴史の舞台から姿を消した。戦後、地球と宇宙のコロニーは地球圏統一国家(Earth Sphere Unified Nation)を樹立し、文民による統治のもとで軍備の解体へと進んでいく。リリーナは、養父ドーリアンと同じ外務次官として、その歩みを支えることになる。財団が積み上げてきた支配の装置は、一つずつ取り外され、最後に「軍を持たない統一国家」が残った。
コラム|外伝が描いた財団の「もう一つの手」
TV本編では描かれなかった財団の暗部を補っているのが、漫画『新機動戦記ガンダムW デュアルストーリー G-UNIT』(ときた洸一、1997〜1998年)である。本編と同じA.C.195年、地球圏から遠く離れた工業コロニーMO-Vでは、G-UNITと呼ばれる試作MSが開発されていた。その存在を知った財団は、正規のOZには調査を禁じたまま、特殊部隊「OZプライズ」にG-UNITの奪取を命じる。コロニーとの通信を遮断し、外の世界から切り離して攻め立てる手口は、財団が舞台の裏でどのような力の使い方をしていたかを物語っている。
興味深いのは、そのOZプライズでさえ一枚岩ではなかったことだ。騎士の誇りを重んじる部隊長ロッシェ・ナトゥーノは、後にヴァルダー・ファーキルが指揮を握ったことで部下に裏切られ、やがてMO-Vの側について戦うことになる。ここでもまた、財団の作った部隊は内部で割れ、その一部は財団に背を向けた。本編で繰り返される「道具の反逆」は、外伝の中でも小さな相似形として描かれているのである。なお、同作は2019年から『G-UNIT オペレーション・ガリアレスト』として新たに描き直されている。
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財団が正規のOZにも秘して動かした特殊部隊、OZプライズ。地球圏の果てのコロニーで繰り広げられた「もう一つのA.C.195年」を、新規カバーの新装版で。新装版 新機動戦記ガンダムW DUAL STORY G-UNIT(1)
四つの道具、四つの反逆 ― 財団はなぜ滅んだのか
ここまでの歩みを振り返ると、ロームフェラ財団の崩壊には一つの型があることに気づく。財団は、自らは血を流さずに世界を動かすために、次々と「道具」を作った。そして、その道具はどれも、作り手の意図を超えて独り歩きし、最後には財団に牙をむいた。

一つ目の道具はOZである。 財団は、自らの手で戦わずに軍を握るためにOZを作った。だが、OZの将兵が忠誠を誓ったのは財団ではなく、トレーズという一人の指揮官だった。財団がトレーズを切り捨てたとき、OZは二つに割れた。
二つ目の道具はモビルドールである。 兵士なき戦争で敵を抑え込むためのMDは、兵士の誇りそのものを否定する兵器だった。財団はMDによって死なない軍隊を得たが、引き換えに、生きた軍隊の心を失った。
三つ目の道具は世界国家である。 国家の垣根を取り払うという理想は、財団による一元支配を覆い隠すための看板だった。だが、「平和的な統一」という大義名分は、そのまま軍備解体の論理へと転用されていく。
四つ目の道具は女王リリーナである。 血統の威光で民衆を従わせるはずの傀儡は、自らの言葉で語り始め、財団の主導権を奪った。
四つの反逆に共通しているのは、財団が道具を「人間を抜きにした仕組み」として扱ったことである。OZの将兵には心があり、MDに置き換えられる兵士には誇りがあり、世界国家の看板には民衆の願いが重なり、女王には信念があった。財団は、そのどれも計算に入れていなかった。ロームフェラ財団は外の敵に倒されたのではない。自らが作り、使い捨てるつもりだった道具の中に宿った「人間」によって倒されたのである。
血を流さない貴族は、貴族たりうるか
「ノブレス・オブリージュ」という言葉がある。高い身分には、それにふさわしい重い義務が伴うという考え方だ。ヨーロッパの貴族たちにとって、その義務の最たるものは、戦場で真っ先に剣を取り、自ら傷を負うことだった。
ロームフェラ財団の貴族たちは、身分と特権を手放さないまま、その義務だけを捨てようとした。OZに戦わせ、MDに殺させ、女王に語らせ、自分たちは安全な場所から世界を動かす。それは効率的な支配だったかもしれない。だが、それはもはや貴族の支配ではなかった。財団の中でただ一人、その義務を本気で信じていたトレーズが財団に背を向けたのは、彼こそが財団の中で最も「貴族」だったからだと言えるだろう。
皮肉なことに、財団が作り出した支配の装置は、最終的には平和への道筋をつけることになった。OZの分裂は戦争の非人間化への問いを生み、世界国家は国境を越えた統一の器となり、女王は完全平和主義の声を世界に届けた。そしてトレーズは、財団が拒み続けた「自ら血を流す」という役割を一人で背負い、戦争に幕を下ろす側に回った。ロームフェラ財団は、旧い時代の支配者が自らの過剰によって崩れ落ちることで、アフターコロニーの世界を新しい時代へと押し出した、意図せざる歴史の触媒だったのではないだろうか。
血を流さない貴族は、貴族たりうるか。ロームフェラ財団の興亡は、その問いに、静かに、しかしはっきりと「否」と答えている。
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財団が表舞台に立ち、そして消えるまでの後半戦を全話収録。デルマイユとリリーナの最高幹部会での攻防は、ぜひ本編の台詞で確かめてほしい。

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小説『新機動戦記ガンダムW』OPERATION 1
財団総会の演壇に立つリリーナ、去りゆく貴族たち。アニメでは語られきれなかった財団内部の駆け引きを、ノベライズで深く味わう。

参考文献
一次情報
- テレビアニメ『新機動戦記ガンダムW』(サンライズ、1995〜1996年)
- OVA『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』(サンライズ、1997年)、劇場版『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇』(1998年)
- 小説:神代創『新機動戦記ガンダムW』OPERATION 1〜5(角川スニーカー文庫、1996〜1997年)
- 小説:隅沢克之『新機動戦記ガンダムW Frozen Teardrop』(KADOKAWA)
- 漫画:ときた洸一『新機動戦記ガンダムW デュアルストーリー G-UNIT』(講談社、1997〜1998年)
- 漫画:ときた洸一『新機動戦記ガンダムW G-UNIT オペレーション・ガリアレスト』(KADOKAWA、2019〜2021年)
- デルマイユ侯爵 – GUNDAM Official Website(キャラクター)
- デルマイユ侯爵 – 新機動戦記ガンダムW 公式サイト(TV Series Library)
- デルマイユ – ガンダムチャンネル キャラクターマニュアル
- ドロシー・カタロニア – ガンダムチャンネル キャラクターマニュアル
- 新機動戦記ガンダムW OPERATION4 彷徨 – KADOKAWA
- 新機動戦記ガンダムW OPERATION5 終焉 – KADOKAWA
- 新機動戦記ガンダムW Re:Master Edition(2) – KADOKAWA
- 新装版 新機動戦記ガンダムW DUAL STORY G-UNIT(1) – KADOKAWA
- 新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇 – バンダイチャンネル
二次情報
- アフターコロニーの勢力 – Wikipedia
- アフターコロニーの勢力 – Weblio辞書(Wikipedia転載)
- トレーズ・クシュリナーダ – Wikipedia
- ロームフェラ財団 – ガンダムWiki
- トレーズ・クシュリナーダ – ガンダムWiki
- ロームフェラ財団 – スーパーロボット大戦Wiki
- デルマイユ – スーパーロボット大戦Wiki
- アフターコロニーの勢力 – サンライズWiki
- ロームフェラ財団 – ピクシブ百科事典
- OZ(ガンダムW) – ピクシブ百科事典
- ドロシー・カタロニア – ニコニコ大百科
- トレーズ・クシュリナーダ – ニコニコ大百科
- 新機動戦記ガンダムW – ニコニコ大百科
- 新機動戦記ガンダムW オペレーション・デイブレイク回 あらすじ – Filmarks
- 新機動戦記ガンダムW 女王リリーナ期 各話あらすじ – Filmarks
- 新機動戦記ガンダムW 第22話 各話あらすじ – Filmarks
- 新機動戦記ガンダムW エピソード情報 – TheTVDB
- 『新機動戦記ガンダムW』48話 – 電撃オンライン
- 新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇 – allcinema
- Shin Kidou Senki Gundam Wing: Endless Waltz Tokubetsu-hen – AniList
- Dermail Catalonia – The Gundam Wiki
- Field Marshal Noventa – The Gundam Wiki
- Mobile Suit Gundam: The Last Outpost – Wikipedia(英語版)
- MO-V – The Gundam Wiki(BreezeWiki経由)
- Roche Nattono – The Gundam Wiki
- ロックフェラー財団 – Weblio辞書(Wikipedia転載)
- History – The Rockefeller Foundation
- AI兵器にも「人道法」適用 国連会議の報告書公表 – 熊本日日新聞(共同通信)
- 第1回国連総会LAWS専門会合 – innovaTopia
- 自律型致死兵器システムに関する政府専門家会合 – 外務省
- 地球圏統一連合 – GG.Lab
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