ドズル・ザビ / Dozle Zabi

画像引用元:『機動戦士ガンダム アーセナルベース公式サイト』
©バンダイナムコフィルムワークス

ドズル・ザビ(Dozle Zabi)は、『機動戦士ガンダム』(1979年)に登場するジオン公国軍の中将であり、宇宙攻撃軍の司令官である。公王デギン・ソド・ザビの三男として生まれ、宇宙要塞ソロモンを拠点に、一年戦争の宇宙戦線を指揮した。身長210cmの巨躯と傷だらけの顔を持ち、最期は試作モビルアーマービグ・ザムに乗り込んで連邦軍の大艦隊に立ちはだかった男である。

ザビ家の人々は、それぞれに異なる武器で戦争を戦った。ギレンは思想と演説で、キシリアは謀略と諜報で戦った。その中でドズルだけが、最後まで「現場」に立ち続けた。部下を愛し、弟を溺愛し、妻と幼い娘を何よりも大切にした猛将は、同時に、開戦初期の大量殺戮作戦を実行した当事者でもある。本稿では、媒体ごとに揺れる人物設定の整理から始め、宇宙攻撃軍の成り立ち、ガルマの死をめぐる「情」の人事、ソロモン防衛戦と援軍をめぐる政治闘争、そしてビグ・ザムでの最期と、その後の宇宙世紀に遺されたものにまでを辿る。


巨漢の肖像 ― プロフィールと立ち位置

ドズル・ザビは、ジオン公国軍の二大軍団の一つ、宇宙攻撃軍を率いる武人である。公国の実権はギレンが握り、政治の駆け引きはギレンとキシリアが担った。ドズルはそのどちらにも深入りせず、純粋な軍人として振る舞うことを選んだ。ザビ家の中で、ドズルはただ一人「政治をしない権力者」だったのである。

項目内容
氏名ドズル・ザビ(Dozle Zabi)
所属・役職ジオン公国軍 宇宙攻撃軍司令、ソロモン司令
階級中将
続柄公王デギン・ソド・ザビの三男
年齢28歳(『機動戦士ガンダム 記録全集1』)、39歳(『THE ORIGIN』)
身長210cm
生没宇宙世紀0051年生まれとされる/宇宙世紀0079年12月24日、ソロモン攻略戦で戦死
家族妻ゼナ、長女ミネバ・ラオ・ザビ
主な搭乗機ドズル・ザビ専用ザクII、ビグ・ザム
座乗艦グワジン級戦艦グワラン(ルウム戦役時はムサイ級ファルメルとされる)
声郷里大輔(当時は長堀芳夫名義。テレビ版・劇場版I)、玄田哲章(劇場版III・特別版)、三宅健太(THE ORIGIN)
キャラクターデザイン安彦良和

ザビ家の中でのドズルの位置は、図1のように整理できる。父デギンはすでに政治の表舞台から退き、長男ギレンが総帥として国家を動かしている。姉キシリアは突撃機動軍を率いてギレンと政治的に競い、軍事ではドズルと縄張りを争った。末弟ガルマは地球方面軍の司令として北米にあり、ドズルはこの弟に格別の期待を寄せていた。

図1 ザビ家相関図 ― ドズルから見た一族(筆者作成・資料に基づく整理)

外見もまた、ドズルという人物を雄弁に語る。210cmの巨体に、肩にトゲの付いた軍服、そして縫合跡の残る強面である。初期の企画段階では「ドルス・ザビ」という名で設定されていたことが知られ、肩のトゲは初期のラフ・デザインの段階から描かれていたという。威嚇のための意匠とも、当時のロボットアニメに典型的だった「力押しの悪役」デザインの名残とも言われる。ところが本編でこの男が見せたのは、典型的な悪役とはおよそ程遠い、情に厚く家族を愛する姿だった。見た目の「悪役らしさ」と内面の人間味の落差こそが、ドズルというキャラクターの最初の仕掛けだったと言えるだろう。

ザビ家の父デギンについては「デギン・ソド・ザビ」、ジオン軍の全体像については「ジオン軍 / Zeon Force」もあわせて参照されたい。


揺れる設定 ― 姉キシリア、年齢、そして顔の傷

ドズルを語るうえで避けて通れないのが、資料ごとに異なる設定の整理である。とりわけ混乱を招いてきたのが、姉キシリアとの関係だ。

ザビ家の子は、長男ギレン、次男サスロ、長女キシリア、三男ドズル、四男ガルマの順に生まれた。次男サスロは一年戦争の前に暗殺されているため、テレビ版の本編には登場しない。キシリアは「長女」であると同時に、出生順では第三子にあたる。したがってドズルはキシリアの弟である。テレビ版でも、第33話のナレーションがキシリアを「姉」と呼び、第35話ではドズル自身が「姉上」と口にしている。

混乱の原因は年齢設定にある。放送当時の『記録全集1』は、ドズルを28歳、キシリアを24歳としている。『THE ORIGIN』でもドズルは39歳、キシリアは35歳とされ、数値の上ではやはりドズルのほうが年上になってしまう。出生順と年齢の数値が噛み合わないこの矛盾が、長年にわたって「ドズルとキシリアはどちらが上か」という議論を生んできた。本稿では、劇中の台詞とナレーション、そして『THE ORIGIN』の家族構成に従い、キシリアを姉、ドズルを弟として扱う。

図2 媒体別に見るドズル像 ― 設定の揺れを整理する(筆者作成・資料に基づく整理)

もう一つ、媒体によって意味が大きく変わったのが、顔の傷である。テレビ版では、傷の由来は劇中で語られない。これに明確な物語を与えたのが、安彦良和の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』だった。同作では、兄サスロが車に仕掛けられた爆弾で暗殺された際、同乗していたドズルも重傷を負い、その傷を完治させずにあえて残したとされている。即死したサスロとは対照的に、ドズルは常人離れした生命力で生き延びた。

この設定変更は、単なる「傷の理由づけ」以上の意味を持つ。『THE ORIGIN』のサスロは、ダイクンの遺児を取り逃がしたキシリアを容赦なく平手打ちにし、それを見たドズルにやりすぎではないかとたしなめられる人物として描かれた。逆にサスロは、そんなドズルをお人好しにすぎると叱っている。ドズルの顔に刻まれた傷は、一族の中でまだ家族らしい会話が成り立っていた時代が、爆弾によって終わったことの刻印でもあった。この事件を境に、ドズルは年の離れた末弟ガルマを溺愛するようになったとされる。

コラム|ザビ家の「庶子説」と母ナルス

デギンの妻、つまりガルマの母はナルスという名で知られるが、ザビ家の子らの母親については諸説がある。父デギンや兄弟たちと比べて、ドズルの体格は明らかに異質である。そのため、ファンの間ではドズル庶子説もささやかれてきた。漫画『機動戦士ガンダム MSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』には、デギンがドズルに対し、子らの母親がそれぞれ異なることを語る場面があるとされる。

ただし、これはあくまで外伝作品の描写であり、ザビ家全体の公式な設定として確定したものではない。小説版では、ドズルが死の間際に思い浮かべる名が妻ゼナではなく「ナルス」となっており、ガルマの母と同じ名であることも、解釈の余地を広げている。いずれにせよ、ドズルが母の面影を残すガルマに強い愛情を注いだことだけは、どの媒体でも一貫している。(庶子説はファンによる説であり、公式設定ではない)


宇宙攻撃軍司令 ― 軍の分割とキシリアとの確執

ドズルが率いた宇宙攻撃軍は、もともと最初から独立した軍団だったわけではない。その誕生には、姉キシリアとの激しい対立が関わっている。

宇宙世紀0078年10月、当時大佐だったキシリアは、モビルスーツを中心とする軍備の増強を主張した。これに対し、宇宙艦隊を重視するドズルは真っ向から反対する。両者とも、自説が受け入れられなければ軍籍を離れるとまで言い出したという。この対立を調停したのがギレンだった。結果として、ジオン公国軍はドズルの指揮する宇宙攻撃軍と、キシリアの指揮する教導機動大隊を母体とした突撃機動軍に分割されることになる。

図3 ジオン公国軍の二大軍団 ― 宇宙攻撃軍と突撃機動軍(筆者作成・資料に基づく整理)

この分割は、組織論として見れば奇妙なものだ。一国の軍が、思想の異なる二人の司令官のもとに二分される。その二人は姉弟であり、互いに張り合っている。「軍の分割」は、そのままザビ家の家庭内の確執を軍組織の構造に焼き付けることになった。 シャアの処遇、北米のキャリフォルニアベースの扱い、そしてのちのソロモンへの援軍と、宇宙攻撃軍と突撃機動軍は、一年戦争を通じて事あるごとに衝突していく。

皮肉なのは、モビルスーツに懐疑的だったドズル自身が、開戦後にはその認識を改めたことである。開戦初期の大戦果を目の当たりにしたドズルは、モビルスーツの価値を認めるようになり、以後は自ら専用機に乗って前線に赴くことさえあった。一方、『THE ORIGIN』ではこの通説と異なり、ドズルは開戦前からモビルスーツの開発を主導した人物として描かれている。同作の公式サイトは、ドズルを新型の人型機動兵器の開発を主導しつつ、士官学校の校長も兼任する大佐として紹介している。

ルウム戦役後、ドズルはサイド1の空域に建設された宇宙要塞ソロモンに駐留する。ルウム戦役で座乗したとされるムサイ級ファルメルは、戦果を上げたシャアに譲り渡され、以後のドズルはグワジン級戦艦グワランを専用艦とした。ソロモンという拠点そのものについては「ソロモン / Solomon」、ファルメルを含むムサイ級については「ムサイ / MUSAI」で詳しく扱っている。

コラム|「何億人ものミネバ」 ― 開戦作戦の実行者として

ドズルを「人情に厚い武人」としてだけ語ることはできない。一年戦争の開戦初期、ジオン公国軍は敵対するコロニーに毒ガス攻撃を行い、そのコロニーを質量兵器として地球へ落とす「ブリティッシュ作戦」を実行した。戦争は人類の総人口の半数を死に至らしめたとされる。この作戦を発案したのはギレンだが、宇宙での実行を担った軍の司令官の一人がドズルだった。

『THE ORIGIN』は、この事実から目を逸らさない。ブリティッシュ作戦の実行後、ドズルは眠る娘の顔を見つめながら、自分は何億人もの「ミネバ」を殺したと号泣する。しかし武人としての彼は、その悔恨を、弱さゆえに己のミネバを守れなかった者こそが敗者なのだという論理に変えてしまう。そして、自分は決してゼナやミネバをそんな目に遭わせないと誓うことで、以後の迷いを断ち切ったとされる。

外伝漫画『虹霓のシン・マツナガ』でも、開戦前のドズルが親友シン・マツナガに対し、自分はおそらく億単位の人間を殺すことになると打ち明ける場面がある。ドズルは、戦争の惨禍を知らずに戦った男ではなかった。知ったうえで、愛する者を守るために覚悟を決めた男だった。 その覚悟の重さと、それがもたらした犠牲の巨大さは、どちらも等しくドズルという人物の一部である。(悔恨の読み方は筆者の解釈。ブリティッシュ作戦を含む一年戦争の全体像は「一年戦争 / One Year War」を参照)


情の将 ― ガルマの死と「仇討ち」人事

ドズルの「情」が、最も鮮烈に、そして最も危うい形で現れたのが、末弟ガルマの戦死である。

ドズルは、母の面影を強く残すガルマを溺愛していた。その能力を高く評価し、いずれは自分をも使いこなす将軍になれと言うほど、その成長を楽しみにしていたという。だが北米方面のガルマは、テレビ版第10話「ガルマ散る」でホワイトベース隊との戦闘の末に戦死する。この戦いには、ガルマの友人を装っていたシャアの謀略が深く関わっていた。

ガルマの死に、ドズルは激昂した。そしてこの時期のドズルの判断は、総司令官としてのそれではなく、明らかに「兄」としてのそれだった。図4に整理したように、ガルマの死は三つの人事を連鎖的に引き起こす。

図4 ガルマ戦死が引き起こした連鎖 ― 「情」による人事の帰結(筆者作成・資料に基づく整理)

第一に、シャアの処分である。ドズルは、ガルマを守れなかったシャアの処刑まで主張したが、デギンの裁定によって左遷にとどまった。ドズル自身は、シャアがガルマの死に積極的に関わっていたことには最後まで気づかなかったようだ。そして左遷されたシャアを拾い上げ、マッドアングラー隊を預けたのは、ほかならぬ姉キシリアだった。ドズルの怒りは、結果として政敵の陣営に有能な駒を一人献上することになった。

第二に、ランバ・ラル隊の派遣である。ランバ・ラルは、かつてザビ家と敵対したラル家の惣領だった。それでもドズルは、彼を「悪い人間ではない」と評価していた。『THE ORIGIN』では、ドズルがラルの手腕を高く買い、モビルワーカー(のちのモビルスーツ)の開発に抜擢する経緯が描かれている。ブリティッシュ作戦をめぐって両者は対立するが、ガルマの戦死に際し、ドズルは仇討ち部隊の指揮官としてラルを再び抜擢した。ラルの側も、ドズルには男にしてもらった恩義があると考えていたとされる。

だが、この派遣は戦略的には大きな問題を抱えていた。地球はキシリアの勢力圏であり、ドズルはろくな調整もないままラル隊を送り込んだ。結果として、現地のマ・クベとの軋轢を招く。降下に使ったザンジバルは取り上げられ、取り付けたはずの補給もマ・クベによって政治的な理由で打ち切られた。ラル隊は乏しい戦力でゲリラ戦を挑み、ラルは戦死する。ラル自身も、これが「ザビ家の個人的感情から出た作戦」であることを見抜いていたという。ラルの父ジンバ・ラルとザビ家の因縁については「ジンバ・ラル」を参照されたい。

第三に、コンスコン隊の派遣である。テレビ版第33話「コンスコン強襲」で、ドズルは腹心コンスコンに艦4隻とモビルスーツ18機(劇場版では艦3隻と12機)を与え、ホワイトベース討伐に向かわせた。そこには、シャアを使うキシリアへの当てつけも含まれていた。しかし、この部隊もホワイトベース隊の前に敗れ去る。出撃したリック・ドム12機が、ガンダムただ1機にわずか3分足らずで全滅させられるという惨敗だった。シャアは、目の前の敵しか見ていないドズルの戦略眼の狭さを指摘している。

こうして見ると、ガルマの死後のドズルは、総司令官としては明らかに冷静さを欠いていた。だが同時に、ここには彼という人間の本質も表れている。兵を悼む情と、弟を悼む情は、同じ一つの源から湧き出ていた。 部下に慕われる将であることと、私情で軍を動かしてしまう将であることは、ドズルの中で表裏一体だったのである。


金装飾のザク ― 前線に立つ司令官

ドズルの武人としての姿を象徴するのが、彼の専用モビルスーツである。

メカニックデザイン企画『モビルスーツバリエーション(MSV)』で設定されたドズル・ザビ専用ザクII(MS-06F)は、身長2mを超える巨漢のドズルが乗れるよう、コクピットを大型化した機体である。肩のスパイクアーマーは量産型より1本多く、両手の甲にもメリケンサックのように3本ずつのスパイクを備える。武器は専用の大型ヒート・ホークだ。全身の縁には金色のエングレービング(紋様)が施されているが、これはドズル本人の趣味ではなく、ある技術士官の発案だったとされる。

機体出典主な特徴
ドズル・ザビ専用ザクII(MS-06F)MSVコクピットの大型化、スパイク増設の肩アーマーと手甲、金色のエングレービング、大型ヒート・ホーク
ドズル・ザビ専用リック・ドム(MS-09R)MSV-Rスパイク付きの肩・手甲アーマー、金色のエングレービング、専用大型ヒート・ホーク
ドズル専用ザク後期型(MS-06R-2S)MSV-R新たな専用機として開発されたが、実際に搭乗することはなかったとされる
ビグ・ザム(MA-08)テレビ版ソロモン防衛戦で搭乗。Iフィールドと大型メガ粒子砲を備えた超大型試作MA

総司令官が自らモビルスーツに乗って前線に出ることには、軍事的な合理性はほとんどない。だが、それが前線の兵士の士気を大きく高めたことは、資料が一致して伝えるところである。小説版には、ドズルがルウム戦役で「戦場視察」を名目に実戦へ飛び出した逸話が記されている。慌てた幕僚が三個戦隊を差し向けたというが、戦果は記録されていないという。指揮官の振る舞いとしては無謀そのものだ。しかし、兵と同じ戦場の空気を吸おうとする司令官の姿は、どんな訓示よりも雄弁に、彼が「現場の人間」であることを兵たちに伝えたのだろう。

金色の装飾は、こうしたドズルの在り方を象徴的に示している。式典やパレードにこそふさわしい豪奢な機体が、実際には前線に持ち出される。見せるための飾りと、戦うための道具がひとつになっている。ザクIIの系譜全体については「ザク Ⅱ / ZAKU Ⅱ」、ビグ・ザムの詳細については「ビグ・ザム」で扱っている。

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戦いは数だよ ― ソロモン防衛戦と援軍

宇宙世紀0079年12月、地球連邦軍は宇宙要塞ソロモンの攻略に乗り出す。オデッサ作戦に勝利し、ジャブロー防衛にも成功した連邦軍にとって、ソロモンは宇宙での反攻の最初の目標だった。そしてこの戦いこそが、ドズル・ザビという人物の本質を最も鮮明に浮かび上がらせることになる。

迫り来る連邦軍の大艦隊を前に、ドズルは本国に増援を要請した。だが、総帥ギレンが送ってきたのは、試作モビルアーマーのビグ・ザムわずか1機だった。部品ごとに解体された状態で届けられたともいう。この1機が2〜3個師団に匹敵すると豪語するギレンに対し、ドズルは思わず不満をぶつける。

「戦いは数だよ、兄貴!」

ガンダムシリーズ屈指の名台詞として知られるこの一言は、実は劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』で加えられたものである。テレビ版でも、ギレンからの補給がビグ・ザム1機と知って憤るドズルの姿は描かれているが、この台詞そのものは劇場版で生まれた。

図5 孤立するソロモン ― 援軍をめぐる一族の政治(筆者作成・資料に基づく整理)

この台詞の背景には、ソロモンが置かれた政治的な孤立がある(図5)。ドズルは、もう一方の軍団を率いる姉キシリアへの援軍要請を、「物笑いの種になる」として拒んだとされる。それでもキシリアはグラナダからマ・クベの艦隊をソロモン救援に向かわせたが、その到着は致命的に遅れた。テレビ版のナレーションも、これを遅すぎる援軍として描いている。父デギンもまた、ソロモンのために動くことはなかった。一年戦争を通じて一族の誰とも派閥を組まなかったドズルは、最も助けが必要な瞬間に、一族の誰からも助けを得られなかったのである。

『THE ORIGIN』の漫画版は、この孤立にさらに踏み込んでいる。同作のドズルは、決死で戦う兵の労をねぎらいながら、ギレンとキシリアが政治的な対立のために数万の将兵を見殺しにしたと激怒する。そして、彼らの内紛がやがてジオンを滅ぼす禍根になると言い残す。この予言は、のちにア・バオア・クーで現実となる。決戦のさなか、キシリアがギレンを射殺し、指揮系統の混乱がジオン敗北の一因となったのである。(ア・バオア・クーについては「ア・バオア・クー / A Baoa Qu」を参照)

では、「戦いは数だよ」という言葉は、単なる愚痴だったのだろうか。そうではあるまい。ドズルは、連邦軍の戦力や兵器を過小評価したことのない指揮官だったとされる。ソロモンを攻める連邦軍は、量産型モビルスーツのジムと簡易モビルスーツのボールを大量に投入し、物量で要塞を押し潰そうとしていた。どれほど強力な新兵器であっても、1機では戦線のすべてを支えることはできない。前線で戦争を見てきた者にとって、それは理屈ではなく実感だった。

一方のギレンは、ソロモンでの決戦よりも、ア・バオア・クーでの最終決戦と、コロニーを改造した巨大レーザー兵器ソーラ・レイに戦略の重心を置いていた。ギレンの目から見れば、ソロモンは大局の中の一つの駒にすぎない。だがドズルにとって、ソロモンにいるのは駒ではなく、名前と顔を持った将兵であり、そして妻と娘だった。

連邦軍のソーラ・システムについては「ソーラ・システム / Solar System (Solar Flare System)」、ソロモン攻略戦で先鋒を務めた連邦軍側の視点は「ヴォルフガング・ワッケイン / Wolfgang Watkein」でも触れている。


殿(しんがり) ― ビグ・ザムと最期

ソロモン攻略戦は、宇宙世紀0079年12月24日に始まった。連邦軍の先鋒艦隊が正面から攻勢をかけ、ジムとボールの物量戦が展開される。その間に、ティアンム提督率いる主力艦隊はサイド1の空域に巨大な鏡の群れを展開していた。集光された太陽光がソロモンを焼く。連邦軍の切り札、ソーラ・システムである。

図6 ソロモン最後の日 ― UC0079年12月24日の流れ(筆者作成・模式図)

ソーラ・システムによって甚大な被害を受け、連邦軍のモビルスーツ部隊に要塞内部への侵入を許したとき、ドズルの判断は早かった。もはやソロモンを支えきれないと見るや、まず妻ゼナと娘ミネバを脱出させ、続いて全軍に要塞の放棄を命じる。そして自らは、ビグ・ザムに乗り込んで出撃した。残存する将兵が撤退するまでの時間を稼ぐため、連邦艦隊の中枢へ突入する。軍事用語で言えば、退却する軍の最後尾で追撃を食い止める殿の役目を、総司令官自らが引き受けたのである。

ビグ・ザムは、もともとジオン軍が連邦軍本部ジャブローの攻略を目的として開発した要塞攻略用のモビルアーマーだった。その火力は凄まじく、ビーム兵器を無効化するIフィールドを備えていた。連邦軍の艦艇は次々と撃沈され、ついにはティアンム提督の座乗する総旗艦、マゼラン級タイタンまでもが沈む。この戦果を目にしたドズルは、ビグ・ザムが量産された暁には連邦軍などあっという間に叩いてみせると豪語した。

だが、その勝利は長く続かない。ホワイトベース隊のスレッガー・ロウは、ビグ・ザムのIフィールドの弱点を見抜く。そしてテレビ版ではGファイター、劇場版ではコア・ブースターで、ガンダムと連携した捨て身の接近戦を挑んだ。スレッガーはこの特攻で戦死するが、その犠牲によって懐に飛び込んだアムロ・レイのガンダムが、ビームサーベルでビグ・ザムを撃破する。

ここからが、ドズル・ザビという男の最後の、そして最も壮絶な場面である。動かなくなったビグ・ザムの機外に出たドズルは、仁王立ちになり、生身のまま手持ちの火器をガンダムに向けて撃ち続けた。ジオンの栄光と己のプライドを叫び、やらせはせんと繰り返しながら、である。モビルスーツに対して人間の銃弾が通用するはずもない。それでもドズルは撃つことをやめなかった。

その瞬間、アムロはドズルの背後に立ちのぼる、悪鬼のような人間の情念を目の当たりにして戦慄する(劇場版では、より抽象的な黒い霧のような存在として描き直されている)。ニュータイプとして目覚めつつあったアムロが感じ取ったのは、一人の人間が背負った執念の巨大さだった。ドズルはビグ・ザムの爆発に呑み込まれて戦死する。

最期の瞬間、怨念のような気を発するドズル・ザビ
画像引用元:『機動戦士ガンダム』 ©バンダイナムコフィルムワークス
場面テレビ版(第35〜36話)劇場版III(1982年)
ギレンへの抗議ビグ・ザム1機の補給に憤る「戦いは数だよ、兄貴!」の台詞が加わる
スレッガーの搭乗機Gファイターコア・ブースター
最期の叫びジオンの栄光と己のプライドを叫ぶジオンの栄光を「貴様ごときモビルスーツ」にやらせはしないと叫ぶ
アムロが見たもの悪鬼のような人間の情念抽象的な黒い霧のような存在
ドズルの声郷里大輔(長堀芳夫)玄田哲章

この最期を、単なる「悪役の断末魔」として見ることはできない。ドズルがビグ・ザムで稼いだ時間は、ゼナとミネバ、そして多くの将兵がソロモンを脱出するための時間だった。テレビ版でドズルが着ていたのは、一般兵と同じノーマルスーツだった。専用の装備も持たないまま、一兵卒と同じ姿で殿に立ったのである。(なお『THE ORIGIN』の漫画版では、軍服と同じく肩にスパイクの付いた専用のノーマルスーツを着ている)。ドズルは「勝つため」にではなく味方や大切なものを「逃がすため」に死んだ。 そして彼が最後まで叫び続けた「やらせはせん」は、敵を倒す宣言ではなく、背後の者たちに指一本触れさせないという、守る者の叫びだったのではないか。(この読み方は筆者の解釈である)

ビグ・ザムに沈められたティアンムの旗艦については「マゼラン級 タイタン / Magellan-class Titan」と「マクファティ・ティアンム / Mcfaty Tianem」、スレッガーの搭乗機については「Gファイター」、ドズルを討ったアムロについては「アムロ・レイ(一年戦争期) / Amuro Ray」を参照されたい。

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コラム|もう一つの最期 ― 小説版とGQuuuuuuX

富野由悠季による小説版『機動戦士ガンダム』は、アニメとは大きく異なる展開をたどる。小説版では、連邦軍はソロモンを無視してキシリアの拠点グラナダを攻める。ドズルはキシリアに援軍を出さず、さらに連邦軍に「無視」されたことに怒って自ら艦隊を率いて出撃する。戦場となるのは、ソロモンとア・バオア・クーの中間にあたるコレヒドール宙域だ。ペガサス隊の猛攻でドズル艦隊は壊滅し、ビグ・ザムで発進したドズルも、アムロのG-3ガンダムに撃墜される。この世界ではスレッガーは戦死せず、一年戦争を生き延びている。そして死の間際、ドズルの脳裏に浮かぶのは、妻ゼナではなく「ナルス」という名だった。

近年の作品でも、ドズルの死は語り継がれている。『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』では名前のみの登場だが、当初はシャアが鹵獲したガンダムのリバースエンジニアリングに反対していたものの、キシリアの説得を受けて共同での開発を承認したとされる。そして第一次ソロモン会戦で、連邦のニュータイプに討たれたことがシャアの口から語られる。歴史が分岐した世界でも、ドズルはソロモンで散る運命にあった。どの世界線においても、ドズルの死はソロモンと結びついている。 それほどまでに、この男と要塞は分かちがたい存在として描かれ続けてきたのである。


武人の家庭 ― ゼナとミネバ

戦場では猛将として恐れられたドズルだが、家庭では愛妻家であり、子煩悩な父親だった。その姿は、謀略の渦巻くザビ家の中で、ほとんど唯一の「温かい家庭」として描かれている。

妻ゼナとの出会いを描いたのは、『THE ORIGIN』である。宇宙世紀0077年、士官学校の生徒たちが地球連邦軍の治安部隊を武装解除させる事件を起こす。のちに「暁の蜂起」と呼ばれるこの事件は、シャアが立案し、ガルマを煽動して決行させたものだった。このとき士官学校の校長を務めていたドズルを足止めする役を、シャアから頼まれたのが、サイド4出身の士官候補生ゼナ・ミアだった。ゼナはドズルに銃を突きつけて身動きを封じる。

事件の後、ドズルは父デギンから「役立たず」と罵られ、ガルマたちの責任をすべて負う形で校長を辞任させられた。だが傷心のドズルは、自分に銃を向けてまで足止めした若い女性に惚れ込み、「ドズル・ザビの子を産んでくれまいか」とプロポーズする。ゼナはこれを受け入れ、ザビ家に嫁いだ。自分に銃口を向けた相手の胆力に惚れる。 いかにもドズルらしい、武人の恋である。

二人の間には、一年戦争のさなかの宇宙世紀0079年9月2日、一人娘ミネバ・ラオ・ザビが生まれる。ゼナはドズルを深く愛しており、連邦軍の攻撃が迫る危険な時期にも、本国ではなくソロモンで娘や侍女とともに暮らしていた。外伝漫画『虹霓のシン・マツナガ』では、9月にソロモンでミネバの生誕祭が開かれ、デギンやキシリアも参列したことが描かれている。

愛妻家であり、家族への想いに溢れていたドズル
画像引用元:『機動戦士ガンダム』 ©バンダイナムコフィルムワークス

ソロモン陥落の際、ドズルの計らいで脱出したゼナとミネバは、救援に向かっていたマ・クベの艦隊と出会う。冷酷なマ・クベは脱出艇を危うく見捨てかけるが、同乗していたバロムの諫言で救われ、二人は月のグラナダへ送り届けられた。ゼナはそこでドズルの壮烈な最期を知り、涙に暮れる。一年戦争の後、ゼナはミネバを連れて小惑星アクシズへ逃れるが、宇宙世紀0081年、心労により病死した。

ドズルを慕ったのは家族だけではない。「ソロモンの白狼」の異名を持つエースパイロット、シン・マツナガは、外伝作品において学生時代からの友人とされ、軍人としても友人としても互いに尊敬し合う間柄として描かれている。のちに『機動戦士ガンダム0083』で「ソロモンの悪夢」と呼ばれるアナベル・ガトーもまた、ソロモンを守った宇宙攻撃軍のエースであり、ドズルがその実力を高く評価していた一人だった。ドズルの周りには、彼のために戦うことを誇りとする将兵が集まっていた。


遺された血脈 ― ミネバと宇宙世紀

ドズルの死は、ザビ家の残る人々にさまざまな反応を引き起こした。そして、その反応の描き方は、媒体によって正反対になっている。

テレビ版のデギンは、ドズルの戦死を聞いても、ドズルにしてみればもっともなことだと短く呟くのみだった。ザビ家の中でデギンはドズルを冷遇していたとされ、この冷淡さはそれを裏付けるようにも見える。一方、『THE ORIGIN』のデギンは、ドズルの戦死によってわずかに残っていた戦意を失い、涙を流して、ただちに連邦との停戦を決意する。同作の漫画版では、劣勢ながらよく戦ったドズルを援軍も出さずに見捨てたとして、デギンがギレンを非難する場面もある。対するギレンは、ドズルの死を武張って短慮を起こしただけだと冷たく切り捨てた。

デギンが選んだ和平への道は、ア・バオア・クー決戦の直前、ギレンが放ったソーラ・レイによって、デギン自身の命とともに断たれる。ドズルの死は、ザビ家が自壊していく連鎖の、一つの起点となったのである。(デギンの和平交渉と最期については「デギン・ソド・ザビ」、ザビ家をめぐる暗闘については「陰謀と粛清のジオン公国:宇宙世紀の暗部に葬られた政治工作」を参照)

図7 ドズルの血脈 ― ゼナとミネバがたどった宇宙世紀(筆者作成・資料に基づく整理)

だが、ドズルが遺したものは、一族の崩壊だけではなかった。ギレン、キシリア、デギンが一年戦争の終わりとともに倒れたあと、ザビ家の血統で唯一生き残ったのは、ドズルの娘ミネバだった。

『機動戦士Ζガンダム』(宇宙世紀0087年)のミネバは7歳となり、アクシズでザビ家の正統な後継者に祭り上げられている。実権を握るハマーン・カーンのもとで、傀儡の君主として歪んだ帝王学を施されながら育った。続く『機動戦士ガンダムΖΖ』で人々の前に立っていたのは、実は影武者だったことが判明する。そして『機動戦士ガンダムUC』(宇宙世紀0096年)で、16歳になったミネバは、宇宙世紀の根幹に関わる秘密「ラプラスの箱」をめぐる争いの中心に立ち、最後にはその真実を全世界に公開する。のちに「ラプラス宣言」と呼ばれる放送である。

小説版『Ζガンダム』には、幼いミネバが、自分が艦隊の旗艦に座乗すれば兵の士気が高まると指摘し、その将器に父ドズルの血筋を見たハマーンが畏怖を覚える描写があるという。『UC』の頃のミネバに見られる大胆な行動力や判断力を、父譲りと見る評者も少なくない。ソロモンで殿に立ったドズルが逃がしたのは、一人の赤子だけではなかった。宇宙世紀がのちに迎える転換点の、主役の一人だったのである。(ラプラスの箱をめぐる事件の起点については「ラプラス事件」を参照)

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一人を愛した将

ドズル・ザビの生涯を振り返ると、そこには三つの顔が重なっていることに気づく。前線に立ち、兵と同じ戦場の空気を吸おうとした「現場の武人」。兵を悼み、弟を溺愛し、妻と娘を何よりも大切にした「情の人」。そして、政治にも謀略にも与せず、軍の分割と兄姉との確執の中で次第に孤立していった「孤立した将」である。

図8 ドズル・ザビ総括図 ― 武人・情・孤立(筆者作成)

この三つの顔は、互いに矛盾しているようで、実は一つの根から生えている。ドズルは、目の前にいる人間のために戦う男だった。だからこそ兵に慕われ、弟の死に我を忘れ、一族の大局的な計算からはこぼれ落ちていった。ギレンが「人類」を語り、キシリアが「権力」を計算していたとき、ドズルが見ていたのは、いつも顔と名前を持った一人ひとりの人間だった。

その同じ男が、開戦作戦で億単位の命を奪った将でもあった。この事実は、ドズルの人間味によって帳消しにされるものではない。むしろ、愛する一人を持つ者であったからこそ、何億人もの「ミネバ」を殺したという悔恨は、より深い傷として彼に刻まれたのだろう。顔の傷と同じように、ドズルはその傷を癒やすことなく、背負ったまま戦い続けた。

「戦いは数だよ」。この言葉は、しばしば物量の重要性を説いた軍事的な警句として引用される。だが、ドズルという人物を通して読み直すとき、その「数」は別の意味を帯びてくる。それは師団の数でも、艦艇の数でもない。ソロモンで共に戦う将兵の一人ひとりであり、要塞の奥で暮らす妻と娘だった。ドズルにとって「数」とは、顔の見える兵と家族、つまりは「守る者の数」だったのである。

だからこそ、最後の瞬間、ドズルはたった1機のモビルスーツに向かって生身で銃を撃ち続けた。その背後にアムロが見た巨大な情念とは、一人の人間が背負うことのできる、愛と執念の重さそのものだったのかもしれない。

ソロモンは落ちた。だが、ドズルが逃がした命の中から、やがて宇宙世紀の未来を変える一人の女性が育っていく。猛将ドズル・ザビの最大の戦果は、ビグ・ザムが沈めた艦艇の数ではなく、彼が守り抜いたその一人だったのである。


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参考文献

一次情報

  • テレビアニメ『機動戦士ガンダム』(日本サンライズ、1979〜1980年)第10話「ガルマ散る」、第12話「ジオンの脅威」、第33話「コンスコン強襲」、第34話「宿命の出会い」、第35話「ソロモン攻略戦」、第36話「恐怖!機動ビグ・ザム」
  • 劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982年)
  • 小説『機動戦士ガンダム』富野由悠季
  • 漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』安彦良和
  • OVA『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(2015〜2018年)
  • 漫画『機動戦士ガンダム MSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ』虎哉孝征

二次情報

調査資料に記載のあった参考情報(本稿では直接確認していないもの)

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タグ: ドズル・ザビ/ザビ家/ジオン公国/宇宙攻撃軍/ソロモン/ビグ・ザム/一年戦争/機動戦士ガンダム

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